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3話 のんびりまったり

 今日はモノハシカ昼食会。


 この昼食会は、モノハシカ王国全土から身分の高い者が集まり催される、比較的大きな規模の催し物だ。開催場所は王国城内。王族も皆参加するため、ルカ王子も参加である。そして、その護衛である私も、行かなくてはならない。


「フェリスさんと一緒に昼食会は初めてだね。楽しみだなー」


 ルカ王子は今日ものんびりしている。


 風になびく銀髪。燃ゆるような紅の瞳。容姿自体は「見るからにただ者でない」といった雰囲気だが、それとは対照的に、言動はのんびりまったり。


「一緒に楽しもうね」

「はい? 意味が分かりませんけど」


 私はあくまで護衛である。

 危機から護る、ということ以上を私に期待するのは、なるべく止めていただきたいものだ。


「え? どうして?」


 ルカ王子は不思議そうな顔をしながら、子どものように首を傾げる。それに加え、紅の瞳はこちらをじっと見つめていた。


 正直少し面倒臭い。


 しかし、彼の中に疑問を残すのは良くないだろうから、一応答えておくことにした。


「どうしても何も、私は護衛です。楽しむなんてありえません」


 するとルカ王子は、微笑みながら、こちらへ歩み寄ってくる。何かと思っていると、彼は私の手をそっと握り、顔を近づけてきた。


「駄目だよ。フェリスさんも楽しまないと」


 彼はどうして、こうも距離を近づけようとしてくるのだろう。

 男女のことに慣れていない私が戸惑う様を眺め、密かに楽しんでいるのだろうか。


 ……いや、それはないはずだ。


 ルカ王子は女遊びをするほど大人びた人ではない。


「いいえ、私はあくまで護衛ですから。気を抜くわけにはいきません。それと、ことあるごとに近づくのは止めて下さい」

「フェリスさんは相変わらず厳しいなぁ」

「いえ、これが普通です」

「そうなのー? でも侍女たちはいつも、何も言わなかったよ?」


 いつも、ということは、侍女たちにもこんなことをしていたのだろうか。

 だとしたら女性として許せない。

 王子という地位を利用して接近するなら、私がここで一発、言っておかなくては。


「侍女の方々にもこんなことをしていたのですか? それは——」


 言いかけた瞬間。

 ルカ王子が、人差し指を私の唇へ、そっと当ててきた。


「違うよ」


 いつになく真面目な声色。表情も日頃の呑気なものとはまったく違っている。一瞬にして変わったルカ王子に、私は言葉を失った。


「こういうことは、気に入っている女性にしかしない」


 思わず数秒黙ってしまったが、すぐに気を取り直し、唇に触れる彼の指を払う。


「……止めて下さい」


 私はくるりと体を返し、ルカ王子から離れる。そして、愛用の剣が置いてあるテーブルまで歩いていく。革製のカバーに入った細めの剣を手に取り、状態を確認。そして、問題がなさそうなことを確認すると、腰にかけた。


 今日は王国中から人が集まる。その中に暗殺者が混じっていたとしても、おかしな話ではない。


 だから、日頃よりも警戒しなくては。


「私は護衛。ただの護衛です。なので、それ以上のことを私に求めないで下さい」

「えー? 可愛いのにもったいないなぁ」


 こうして呑気に話している間にも、何者かがルカ王子を狙っているかもしれない。そう思っておくくらいでちょうどいいだろう。特に今日は。


 そんなことで普段よりピリピリしていると、それを宥めるような柔らかい声でルカ王子が言ってくる。


「フェリスさんって、食べ物は何が好きなの?」

「……はい?」

「食べ物。甘いのとか好き?」

「はい……まぁ」


 もっとも、好きな食べ物について考えたことはあまりないが。


「じゃあ今度お茶とかしない? 僕も甘いもの大好きなんだ」


 ルカ王子は心なしか恥ずかしそうに笑った。恥じらいの混じった笑みは、いつもの屈託のない笑みとはまた違った雰囲気で、興味深い。


 それにしても、突然お茶の誘いだなんて。


 お茶なんて、私には似合わないだろう。

 なんせ私は、戦いばかりに集中していた身だ。甘いものとお茶を楽しむなんて、そんな贅沢でおしゃれな暮らしは、しっくりこない。


「どうかな?」


 だが、一度くらいは経験しておいてもいいかもしれない。この機会を逃せば、もう二度と、そんな経験はできないだろうから。


 だから私は首を縦に動かした。


「分かりました」


 すると、ルカ王子の顔が、ぱあっと明るくなる。


「本当!? やったぁ!!」


 第一王子ともあろう人が「やったぁ」だなんて、少々おかしな感じがする。

 けれども、喜んでくれるに越したことはない。護衛たるもの、護衛対象と友好的な関係を築くことは大切である。


 ……もっとも、過剰な関わり合いはしたくないけれど。

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