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11話 打ち明けてみることに

「その……実は」


 私は打ち明けてみることに決めた。

 しかし、ルカ王子を真っ直ぐに見つめて話すことはできない。


「少し前から、なぜが調子が優れなくて」


 護る対象である彼を不安にさせるような、こんな発言をするなんて、護衛としては失格だろう。だが、彼が打ち明けることを望んだのだ、少しくらい話してみても、怒られたりはしないだろう。


「えっ、体調が? そうだったの?」

「はい」

「そうだったんだ……。気づかなかった」


 ルカ王子は目をぱちぱちさせながら、不安の色を浮かべてこちらを見ている。


「じゃあお医者さんに診てもらうといいよ!」


 何を今さら、といった感じだ。

 診てもらったのに「気のせい」で終わりにされたから、こんな心境になっているのではないか。


 ……いや。


 純粋に心配してくれているルカ王子に、冷たい態度をとるのは問題だ。私のことを思って考えてくれているのだから、感謝すべきところである。


 だから私は丁寧に返す。


「一応城内のお医者様に診てはもらったのですが、『気のせい』ということで。原因は分かりませんでした」


 するとルカ王子は、眉頭を寄せ、困り顔になる。


「えー。フェリスさんの体調不良の原因が分からないなんて、役に立たない医者だなぁ。あの医者、クビにしよっか」


 らしくなく、きっぱりと言い放つルカ王子。


 日頃のぼんやりした振る舞いには、第一王子の威厳といったものはほとんどない。が、こうしてはっきりと物を言うと、第一王子感が出てくる。今は、いずれ人の上に立つ人間、といった雰囲気が漂っている気がした。


 だが、体調不良の原因が分からなかっただけで医者をクビにするのは、さすがにやりすぎだ。

 だから私は、歩き出そうとするルカ王子を制止した。


「待って! 待って下さいっ!」

「どうしたの?」


 足を止め、振り返るルカ王子。

 ぱちぱちと開いたり閉じたりする瞼の奥にある、紅の瞳は、こちらをしっかり捉えていた。


「べつに、クビにしなくていいですから!」


 私のせいでクビになったりしたら、医者に怨まれそうだ。人の念とは怖いものゆえ、怨まれるのは極力避けたい。


「えー。どうしてー?」


 ルカ王子はなぜか不満げな表情。

 あの医者に怨みでもあったのかな、と思ってしまうような顔をしている。

 もしかしたら、彼はあの医者を気に入っていないのかもしれない。いや、もちろんこれは、私の想像にすぎないのだが。


「私のせいでクビになったら、私が怨まれますから! そういうのは困ります!」


 正直なところを言っておいた。

 この際、本心と異なる言葉で飾り偽ることもない。そう思ったからだ。


「あ、そうだったんだ。分かったよ。フェリスさんがそう言うなら、クビにはしないでおくね」


 よ、良かった……。


 私の本心を、ちゃんと理解してもらえたようだ。


「ありがとうございます。そうしていただけると助かります」

「もちろん! それで、どんな症状があるの?」


 来た。

 この質問が来てしまった。


 ルカ王子と関わるたびに胸に違和感がある、なんて、本人に直接言えるわけがない。

 そんなことを言えば、まるで彼を責めているこのようではないか。護衛の分際で王国の第一王子にそんな無礼な発言……無理だ。言えない。


「フェリスさん? どうして黙るの?」

「……あの、やっぱりもう、気にしないで下さい。私は大丈夫ですから」

「え。どうして今さら口をつぐむの?」


 確かに、ここまで言っておいていきなり「気にしないで」なんて、明らかにおかしい。

 やはりすべてを打ち明ける外ないのだろうか。


 そんなことを考えて悶々としていると、突如、ルカ王子が私の腕を掴んできた。


 彼の、こういった類の急な行動には、もう慣れた。だから動揺はしないし、激しい抵抗もしない。ただ、突然すぎて戸惑ってしまうのは、いまだに変わらないところだ。


「何だって受け入れるからさ、話してみて?」

「ルカ王子に対して失礼なことを言うことになるかもしれません」

「いいよ。何でも僕は受け入れる。だから話してほしいな」


 彼の銀髪が、私の頬に柔らかく触れた。

 鼻を通り抜けるのは、髪から漂っていると思われる、ふんわりした良い香り。ほんの一瞬嗅ぐだけで心が落ち着いてくる。


「お願いしてもいい?」


 距離が近い、距離が。


 相手が王子でなければ一発殴っていたことだろう。


 私の顔とルカ王子の顔は、今や、ぎりぎり鼻が当たらない程度の近い距離にある。近すぎて顔のパーツがはっきりと視認できないほどの距離だ。

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