最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【11】
「ユニクスさん、大丈夫です? 何があったのかは良く分からないですが……このまま、混沌龍と戦闘になってしまうかもです! ここが正念場なのです! 気を引き締めて行きましょ~」
直後にみかんがやって来た事で、リダとユニクスも周囲に視点を置いた。
見れば、すぐ直前の所で浮いていた混沌龍が、今にもこっちに向かって来ようとしているのが分かった。
しかし、混沌龍の周囲に出現している暗黒球が束縛していたのか? 今の所は動きたくても動けない状態になっている。
なんとも不自然な状況が続いていた中、みかんが加わった三人の前に伝承の道化師が出現する。
相変わらずの神出鬼没ぶりで、いきなり正面に空間転移して来た。
「くくく……こう見えて、私は紳士でしてねぇ……みなさんの準備が整うのを待っていたのですよ?」
「次は、紳士と言う単語を辞書で引いてから物を言いなさい」
毒々しい笑みのまま自画自賛して来る道化師を前に、みかんは辟易する声音を返して見せる。
かなりの余裕と言うべきか?
……いや、違う。
恐らく、道化師にとって現状は単なるお遊びに過ぎないのだ。
道化師からするのなら、ゲームはフェアにやらないと行けない程度の、取るに足らない内容なのかも知れない。
「そろそろ、準備が整いましたかねぇ?……それでは、私が消えたと同時にゴングです。皆さん? 頑張って下さいね……くくく」
「……っ!」
言い、悠長に手を振った道化師を前にして、みかんの顔が固く強張る。
ついでと言うのも妙だが、ここで道化師をも倒して置こうと言う算段でいたのだ。
そんなみかんの思考を見透かしたかの様に、道化師は軽く右手を降りながら、スゥ……と消えて行った。
「逃げる事だけは一人前ですね……全く」
消えて行く道化師を侮蔑の眼差しで見送りつつ、みかんは視点を混沌龍へと変えて行く。
道化師が消え去ると同時に、混沌龍の周囲にあった暗黒球も消滅する。
それは、混沌龍の束縛が解けた事を意味していた。
「行きます! リダ、ユニクスさん! 気張りますよっ!」
かくして、みかん・リダ・ユニクス対混沌龍の戦いが始まった。
▲○▽○▲
他方、地面にいたシズは三人の戦いを見守りつつ、剣聖の奥義を展開していた。
剣聖でもあるシズには、彼女特有のスキルが幾つも存在している。
その中の一つに『剣聖の護り』と言うのがあった。
スキル・剣聖の護り。
このスキルが発動すると、シズを中心に巨大な透明の壁が出現する。
透明の壁は意図的に大きくも小さくも出来る。
ただ、現在展開している様な巨大な壁……コーリヤマの全てを覆う様な規模になると、保持する為にはかなりの精神力を必要とする為、剣聖と呼ばれるシズと言えども一時間程度が限界であったりもする。
また、このスキルが発動している間は、シズ本人の動きがかなり制限されてしまう。
普通に動く程度であればそこまでの支障は出ないのだが、戦闘に参加出来るだけの激しい動きは出来ない。
ただ、それだけの制限を受けても余りある鉄壁の防御は、ありとあらゆる物理・魔法攻撃を全て完璧にシャットアウトする事が出来る。
シズが長い年月を掛けて会得した剣聖奥義の一つであり、剣聖の卵であるういういにはまだ使用する事が出来ない特殊スキルでもある。
……と、この様に。
シズは剣聖の護りを発動させる事で、周囲に超強靭なバリアを展開させていたのであった。
このスキルにより、混沌龍の攻撃はもちろん、みかん達の無茶苦茶な攻撃まで全てシャットアウトする事が可能になる為、街の被害はほぼゼロにとどめる事が出来る。
反面、シズは戦闘に参加する事が不可能になってしまう為、発動した剣聖の護り内でじっと戦況を見ている事しか出来ない。
「……う~。みんな頑張れ」
仕方ないので、近くにブルーシートの様な物を敷いて、お茶が入った湯飲み片手に混沌龍と戦うみかん・リダ・ユニクスの行く末を見守る事しか出来なかった。
余談だが、近くにはフラウもいる。
彼女は万が一の事を考え、この場に残る事を決めた。
他方のカグとカサブの二人も、この場に残ろうとしたのだが……ういういに諭され、中心市街地にある冒険者協会のホテルへと一時避難する事になった。
二人はダンジョンの守護者であると同時に、この街に存在する土着の神様でもある。
五十年前に悲しい出来事が連鎖してしまった為に、一時はその存在を消してしまう事になってしまうのだが、元来であるのなら街を守る神様でもある為、今後の未来を考えるのであれば二人の神様は温存したい。
仮にみかん達が戦闘に敗北してしまった場合……ヒャッカを封印し、深層心理の世界へとダイブして彼女の心を取り戻す方法に変わった場合、カグとカサブの二人はどうしても必要不可欠なキーになるのである。
ここから考えても、二人には無事でいて欲しかったのだ。




