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最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【9】

 事は一刻を争う!


 思ったリダは素早く混沌龍へと飛んで行く。

 文字通り飛んでいた。

 浮遊魔法レピデーションを瞬時に使ったリダは、物凄い勢いでユニクスの前へと向かう。


 ユニクスに劇的な変化が起きたのは、この瞬間であった。

 



   ▲○▽○▲




 時間はほんの少しだけ戻って。

 場面は、混沌龍が復活した時だ。


 ユニクスは頭が真っ白になった。


 もはや悪夢と言っても良い。

 

「……こ、こんな事が……」


 誰に言う訳でもなく独りごちた。

 同時に身体が動いた。

 もはや無意識レベルだ。


 物凄い素早さで飛んだユニクスは、一心不乱状態で混沌龍の眼前にまでやって来ていた。

 そこで冷静さを取り戻す。


 私は何を勝手な事をしているんだ!

 ハッとなり、自分でも無意識の内に単独行動を取ってしまった自分に嫌悪した。


 でも、思う。

 強く……そして切実に。


 私は、この街を守りたい……と!


 剣聖杯以降からのユニクスは大きく変わった。


 相手を見下す事でしか自己表現が出来なった彼女が、剣聖杯でフラウと打ち解け合う事で激変した。


 切っ掛けなんて実にシンプルかつ簡素だ。

 人として、慈しむ事の大切さを知ったからだ。


 フラウと打ち解け合った事で、ユニクスの根本的な考え方を大きく改変させていた。

 まさに、心の革命が起きたと述べても過言ではない。

 

 なんの事はないのだ。


 フラウは……ユニクスに、とっても単純な部分を分かりやすく態度で彼女へと示した。


 優しい気持ちで相手に接すれば、優しい気持ちが自分に返って来る。

 相手を思いやる事が出来れば、その思いやりの精神は自分にも戻って来る。

 互いに相手を慈しむ気持ちは、こうする事で幾らでも循環し続ける。


 そこから紡ぎ出された答え。


 人間は悪魔とは違う存在である。


 こんな事は誰彼に聞くまでもなく、至極当然のことわりとして気付く様でもある。


 だが、それは間違いだ。

 それは人間として生まれて来た『だけ』であればこその思考なのだ。


 ユニクスの前世は下級悪魔。

 そして、その記憶は今も鮮明に残っている。


 つまり、悪魔転生からの人間である事が大きく響いているのである。

  

 今現在においても……人間をしている時間よりも悪魔として生きた時間の方が圧倒的に長い。

 ほんの少し前までは、悪魔としての自分を捨て切れないでいた。


 力こそ正義で、弱い者は淘汰されて当然の世界……力の無い下級悪魔は、奴隷同然の扱いが常識の環境にいたのだ。

 人間に転生したから、貴方は人間としての道徳を持って生きて下さいねと言われて、すぐに『はいそうですか』……とは行かないのも無理はなかった。


 ……しかし。


 ユニクスはあの日から変わった。

 人間として生きる事の素晴らしさを知った。


 ……優しさを覚えた。


 フラウがくれた、悪魔にはなかった……人間だからこそあるだろう精神的な温もりは、ユニクスにとって新鮮であり、そしてとても大切な宝物へと昇華して行った。


 すると、その優しさの感情は増幅して行く。

 

 正確に言うのなら、プラスの感情とでも言うべきか?

 今まであったマイナスの感情は消えて行き、ユニクスが持つ感情のベクトルは急速にプラスへと傾いた。


 だからこそ、今のユニクスがいた。


 この街は、今の自分を生んでくれた街だ。

 今の自分……人間である、ユニクス・ハロウを誕生させてくれた街だ。

 私は、この街に感謝しなければならない。


 そして、その感謝の気持ちを、今こそ返す時が来たのだ!


「この街は、私が守る……」


 誰一人も、死なせない。

 街のみんなを……私の故郷を……私は、必ず救って見せる!


 私はもう……悪魔なんかじゃないのだ。


「そう……私は、人間!」

 

 新しく人間として生まれ変わった、ユニクス・ハロウだ!


 そうと、心の中で絶叫した時だった。


 ……カッ!


 上空が激しく光った。

 一瞬、混沌龍からの攻撃が飛んだのかと思ったが……すぐにそうじゃないと悟る。

 

 理由はとても簡素な物だ。


 その光には脅威がない。

 むしろ、あたたかな……温もりの様な物さえ感じる。


 これは一体……なんだろう?


 謎の光を前に、唖然としていたユニクスがいた時、


『よくぞ、ここまで心の成長を果たしましたね……素晴らしい事です』


 声がした。

 ……何がなんだか良く分からなかった。


 分かっている事と言えば、途方もなく優しい……慈愛その物と比喩したくなるまでに優美な声音こわねが、自分の耳に届いた事のみだ。


『貴女は、遂に人としての心を全て会得したのです。悪魔としての記憶を持ち、負の感情を持つと言う大きなハンデを背負いながら……しかし、貴女は人として人を慈しみ、敬い、信じ……そして守ろうとしました』


「………」

 

 どこかとなく聞こえて来る謎の声に、ユニクスは無言になっていた。

 不意に涙が出て来た。

 別に認めて貰いたくてやっていた訳ではないし、純粋に自然の成り行きで今の自分の心は誕生していた。

 だから、誉めて貰いたいなんて、ちっとも思ってない。


 なのに……それなのに、嬉しかった。

 無意識に、涙のしずくが頬を伝った。


 このしずくで、自分が涙を流していた事に気付いた。

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