最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【8】
直後、みかんは周囲のメンバー全員に向けて声高に叫んだ。
「みんな! 今日のダンジョン攻略は無しです!……ううん、違う! そもそものプランを根底から変えないと行けないです!」
「根底から……?」
叫んだみかんに、リダが素早く声を返して見せる。
直後にリダも一つの答えに到達したのだ。
「……もしかして、それは私の出した補助案件が正式に使われる的な展開って事になるのか……?」
リダは口許を引き釣らせて尋ねた。
リダが出した案件……一時的に保留になっていた計画ではあったのだが、こっちがメインとして優先されると言う事は……?
「そうです……やつは、あのふざけた道化師は、最初から混沌龍を復活させる気でいたのですよ!」
「……やっぱりか……」
ズバリ叫んだみかんに、リダは苦々しい顔になって呟く。
ゴヒャク池の水上で巨大なスパーク音が発生したのは、ここから間もなくだった。
ドォォォォォンッッッ!
爆発と同時に、爆風が周囲を支配する。
「…………くっ!」
周囲のメンバーは何とか足を踏ん張る形で爆風を耐えて見せる。
派手な割に、爆風自体の威力はそれでもなかったのが幸いした。
……だが。
喜んでばかりもいられない現実が、バンッ! と……そこに出現していた。
出現したのは、巨大な黒いドラゴン。
まさに混沌を連想させる、闇色の巨大ドラゴンがゴヒャクの池に出現していた。
「……おお、これは凄い。最高のオモチャですね。出来映えも良い……」
ゴヒャク池の水上で、軽く羽ばたきながら浮遊している混沌龍を前にして、伝承の道化師は満足そうに感嘆の声を上げた。
「………」
みかんは無言になる。
ゴヒャク池に出現した混沌龍を見た時……みかんは悟った。
かつて……五十年前に封印させた混沌龍よりも、格段にパワーアップしていると言う事実に。
「馬鹿ピエロ……あんた、混沌龍に何をしたです?」
「特に何もしておりませんよ?……くくく」
「馬鹿も休み休み言えです……かつての混沌龍もそれなりの強さを誇っていましたが……今の混沌龍は軽く数倍以上の強さになってるです」
そこから予測すれば、まず何より先に疑うべき相手は道化師以外に存在しないのだ。
「そう言われましてもねぇ……強いて言うのなら、封印を解く為にみかんさんが作った魔法陣に私の暗黒球を少々混ぜただけ以外は何も?……他は、特段手など加えておりませんが、何か?」
「やってるじゃないですか……クソ馬鹿野郎……」
飄々(ひょうひょう)と答えて行く道化師に、みかんは殺意すら感じられる程の視線をみせた。
「おお、怖い怖い! そんな粗暴な目をしている様ではレディ失格ですよ? もっと淑女たる態度と言う物を学んで見ては如何かな?」
皮肉以外の何物ない台詞を、大袈裟なアクションをしてから答える道化師。
そして、吐き気すら抱きたくなるまでの毒々しい笑みを濃厚に作った後、軽くゴヒャク池を飛ぶ混沌龍を指差した。
このボディランゲージが示す意味は、もう道化師本人の口から聞くまでもないだろう。
直後、目を大きく見開いたみかんは、素早く周囲の人間へと叫ぶ。
「ういういさん! カグとカサブ……それと、フラウさんを安全な所まで避難させて! シズさん! 街の安全を確保するには、シズさんのスキルが絶対条件です! 一緒について来て!」
そこまで言ったみかんは、すぐにリダへと叫ぶ。
「リダは、みかんと一緒に混沌龍を叩くです! そしてユニクスさんは……」
言ったみかんはキョトンとなった。
その時になって初めて気付いたのである。
いつのまにか、ユニクスが忽然と消えていた事に。
「……まさか、一人で?」
思ったみかんは、混沌龍へと素早く視線を移す。
果たして、そこにユニクスがいた。
「い、いくら何でも無茶です! 昔の混沌龍であるのなら、少しは互角の戦いが出来たかも知れないけど……今は思いきり状態が変わって来てるです!」
みかんは遮二無二がなり立てる。
ユニクスの実力は、もう既にSSの域を越え……レジェンドの域に達しているとは思う。
しかし、それでもLで言うのなら最下層のレベルだ。
珍妙な表現になってしまうのだが、レジェンド見習いと言った所だ。
伝承の道化師によって、その能力を数倍にまで上昇させている混沌龍を相手に単身で戦うには……まだ至らない。
それどころか、場合によっては瞬殺すら可能性として考えられるだろう。
封印が解けたばかりだからか? それとも道化師が止めているのか? 理由は分からないが、まだ混沌龍が攻撃を取っておらず、ユニクスも浮遊魔法でただ浮いてるだけだった事も幸いして、今の所は問題なく対峙する事が出来ているのだが……。
「このままだと……ユニクスが危ない!」
言ったリダは顔を引き締めた。




