最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【7】
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翌日。
リダを中心とする三人と、みかんを主軸とする五人のパーティーは、一同にゴヒャク池へと集結する。
ゴヒャクは、五大池の中では大きさもちょうど平均的な池だ。
特徴としては、池の南側に大きな雑木林があると言う事だろうか?
森と表現するにはちょっと小さいが、林と表現するのならすこぶる大きいと言う……地味に中途半端な規模の雑木林が存在していた。
「もうすぐ正午だな」
「そうですねぇ」
時計を確認する形で言うリダに、みかんが相づちを打ってみせる。
果たして。
時刻は昼間の十二時となった。
瞬間、池の中央に迷宮が出現する。
……だが、少し様子がおかしい。
「……何だ?」
リダは眉をよじった。
迷宮が池から浮き上がって来るだけにしては、周囲が派手だった。
この池だけ特別で、出現の際に特殊な演出が加わっているのだろうか?
……ふと、こんな事を考えるリダがいたのだが、
「う? 何だろう? こんなの初めて見た」
「……ですねぇ」
キョトンとした顔で軽く周囲を見回すシズと、確実に異変が発生していると悟ったのだろうみかんを見て、現状は明らかに元来の予定とは全く異なる状況へと発展している事に気付いた。
「……な、何これ?」
他方、フラウもかなり驚いた顔になって目を白黒させながら回りを何回も確認していた。
「……分からん。取り敢えず、なるようになるとしか言えないな」
リダは呟く。
そんなリダの視界に入っている物は……暗黒物質染みた得体の知れない超自然エネルギーが、プラズマ状になって池の上を高速で走るかのように右往左往していた。
抽象的に別の状態で言うのなら、暗黒色の雷がそのまま池にとどまって、そのまま池の上で素早く水上歩行している感じだ。
正確に言うのなら、歩行と言う速度ではなかったのだが。
どちらにせよ、これが魔法であっても現実では考えられない。
一体、何が起こっていると言うのだろうか?
「……っ!」
刹那、何かに気付いたカグが、視線をあさっての方角に向けた。
同時に気付いたカサブが、周囲の皆へと声を掛ける。
「みなさん、あれを見て下さい!」
神妙な顔になって切迫した大声を上げ、カサブは素早く指差した先には……大きな光のタワーみたいな代物が。
「なんだ、あれは……?」
リダはポカンとなった。
不測の事態とも言える現状だったが、更に輪を掛けておかしな事が起きていた。
ここから見る限り、巨大な光のオーラ染みた物が細長い円筒状になって上空まで延びている様に見える。
そして、その光が放たれている場所は……。
「多分、五大池かもです」
「……ご名答」
みかんが自分なりの予測を口にした時、全く予期せぬ方角から意図せぬ声が全員の耳にやって来た。
声がした方角に目を向けると、そこにいたのは空中をゆったりと浮遊する形で浮いていた道化師の姿が。
「また会いましたねぇ、みかんさん?……くくく」
「……全く。本当にあんたは何処にでも出て来る。暇人にしても節操がないと言うか何と言うか……」
下卑た笑いを不気味に見せつつも、ペコリとお辞儀をして来た道化師を前に、みかんは憎々しいと言うばかりに顔をしかめた。
露骨にしかめたみかんの表情からは、怒りと言う単語しか出て来ない。
「今度は何をしたです?……馬鹿ピエロ」
「馬鹿とは御挨拶ですなぁ……私は純粋に貴方達とゲームをして遊ぼうとしているだけだと言うのに」
完全な喧嘩腰だったみかんを前に、道化師は大仰に嘆いて見せる。
相変わらずのオーバーリアクションだった。
「ゲームだと?」
道化師の言葉に、リダはピクリと反応する。
彼女の感覚からすれば、今の状態はおおよそゲームと呼べる状況など、大きく超過している。
冗談で言うにしても、笑えない戯れ言だった。
「寝言を言うのはまだ早いぞ?……太陽が真南にある」
「今の状態を見て、寝言だと思いますか? 私だって寝る時にしか寝言は言いませんよ?……くくく!」
言うなり、道化師は右手を振りかざした。
その瞬間。
円筒状になっていた光のオーラが、突然暗黒色に変異した。
それは変色と言うより、変異と述べた方がより的確だった。
一瞬にして、全く異なる何かに変わった。
少なくとも、周囲にいた者達にはそうとしか映らなかった。
……否。
正確に言うのなら、
「……ま、まさか……」
そこでみかんは蒼白な顔になった。
この瞬間、みかんは一定の答えに到達したのである。
「そうそう……流石はみかんさんだ。私が説明するより先に、もう答えを当てている」
愕然とした顔のみかんがいた所で、道化師は満足そうな顔で感心する。
「きさまぁぁっ!」
刹那、怒りに精神の全てを注ぎ込む様にして、みかんが激しく激昂した。




