最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【5】
「ほむ……まぁ、聞きますか」
やたら真剣な顔になって口を動かすリダを見たみかんは、そこで能天気スペシャルだったユルユルな表情を引き締めてから口を開いた。
凄い変わり様である。
まるで百面相だった。
しかし、すぐに切り替えて貰った方が都合の良いリダは、内心で『いきなり空気変えて来るのかよ!』とか思っていたが、実際に言う事はなかった。
今は茶化している場合ではなかったからである。
「実は、カオスドラゴンの催眠魔法を打破する方法を見つけた」
「……ほむ」
リダの言葉に、みかんは短い相づちだけを返した。
そこからリダは、さっきの自分が考え付いた提案を交えた上で、催眠魔法を施す方法を説明して行く。
「なるほど……悪くはないですねぇ」
「だろ? 私もそう思っていた所なんだ」
一通り、リダの話を耳にしたみかんは、神妙な顔になった状態で肯定的な言葉を口にする。
そんなみかんを見て、リダも明るい顔を見せた。
さっきは、フラウに思いきりダメだしを喰らっていたので、そこを加味した分だけ晴れやかな顔になっていた。
……が、しかし。
「ただ、それは案として一旦、保留にしても良いです?」
こうと答えたみかんがいた事で、リダの顔が急に渋面になる。
「なんだよ……お前もフラウ派か? 新しい派閥争いが生まれるのか?」
「フラウさんが何を言ったか知らないですが……多分、違うかもです」
「じゃあ……何がいけないって言うんだ?」
「そうですねぇ……カグとカサブの二人が持ってる心情を加味して上げたいかなぁ……と」
「心情か……なるほど。そう来るか」
悩む感じで言うみかんに、リダも両腕を組んで頷いた。
フラウと同じく、否定的な言葉を出しているみかんではあったが、ここはリダも納得の出来る内容であった為、無下に聞き流す訳にも行かない。
そして、なにより……。
「……と、言う事は、みかんにも何か考えがあった訳か?」
フラウとは決定的に違う所がある。
ちゃんと代案を立てた上で答えている事だ。
「もちろんあるです。リダの案はすこぶる的を得た案ではあるのです。多分、理論的にと言うか……魔導的にはそれで行けるです。みかん的には目からウロコだったです……知恵を捻ると言うか性格を捻ると言うか、まぁリダらしい案だと思うです」
「最後の性格を捻るには賛同しかねるが……まぁ、良い。つまり、みかんの考えている案だと、カグやカサブの気持ちも考慮した上で、カオスドラゴンの催眠を打ち破る事が可能だって言う事だよな?」
「そうなるです。これまで封印の魔法陣をしっかり戻して、混沌龍の封印を完璧にしていたのも、その為なのですよ~」
「なるほど。この魔法陣製作にも、ちゃんと理由があった訳だな」
みかんの説明に、リダもうんうんと納得する形で何回も頷いていた。
そして思う。
これが話し合いだよな……と。
同じ否定にしても、フラウとは多角面に違うので、なんだかんだで納得出来てしまう。
最初からフラウなんぞに話さす、直接みかん達の所に来るんだったと地味に思うリダがいた所で、みかんがリダへと説明に入った。
「みかん達が催眠魔法を解こうとした方法は、ヒャッカ……つまり、カオスドラゴンの深層心理にダイブして、直接ヒャッカを起こそうと言う方法でした」
「そうか……だから、封印がほしいのか」
「ですです。話が早くて良いですね。つまりは、封印されてないとジタバタされてしまうので、カオスドラゴンの深層心理にダイブする事が出来ない訳です」
「……なるほどな」
リダは軽く頷く。
反面で、疑問も抱いた。
「一つ聞きたいんだけど、その深層心理の中に誰が入るんだ? カグとカサブの二人は行くんだろうけど……それだけじゃ危険じゃないのか?」
リダは苦い顔になってみかんへと尋ねる。
以前にも言っているが、他人の深層心理へと潜り込む行為と言うのは、極めて危険な行為なのだ。
潜り込まれた方も去ることながら……潜り込んだ存在もまた、大きな危険が待っている。
最悪の場合、どちらも精神を壊されて……永遠に目を覚ます事がない可能性だってあるのだ。
他方、みかんの言わんとする意味も理解する事が出来た。
カグやカサブは、今回起こった一連の事件で一番関わりの深い存在だ。
カグは何百年も前から付き合いのある、姉の様な存在。
カサブに至っては、正真正銘の姉だ。
きっと、誰よりもヒャッカを救いたいと考えているだろう。
そして、封印されている状態と言うのも、一つのポイントだ。
この状態であるのならば、街に被害が出る事がない。
その正否に関係する事なく……周囲に一切の迷惑を掛ける事がないのだ。




