最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【3】
「精神的に弱らせる……ですか」
リダの説明を受けて、少しだけ悩むユニクスがいた。
言うは簡単だが、やるは難しい内容であったからだ。
「まぁ、精神的に弱らせると答えたが……要は、どんな形でも良いから直接弱らせて、精神的に弱くなった所で私なりに製作した解除魔法を発動させると、違う催眠魔法が掛かる」
「……え? ちょっと待って? 違う催眠魔法……って」
そこでフラウの声が飛んだ。
「そうだ、催眠魔法を掛け直すんだ」
「……そ、それ、違う催眠魔法が掛かるだけで、根本的な解決になってないんじゃ……?」
「そう思うだろう? けど、実はちょっとここには仕掛けがあるんだ」
地味に素朴な質問になってしまうフラウがいた所で、リダはニッと快活な笑みを作った。
「まず、最初に。通常の状態で催眠を上掛けしたとしよう?……すると、前回の催眠魔法と今回の催眠魔法がごちゃごちゃになる。ここから、精神的に健全……簡素に言うと、弱ってない状態で催眠魔法を掛けると逆に危険となる。よって使用する事が出来ない」
そこで、相手の精神力を低下させる。
「次に、弱った状態にする。今度は相手の精神力が低下しているんだが、この状態だと催眠状態も低下している。そこで、古い催眠を完全に書き直す感じの催眠を吹き込める。タイミングが少し難しいのが難点だな。こうする事で、新しい催眠が優勢になり……状況にもよるが、古い催眠は最終的に消滅する」
「でも、新しい催眠は残るんだよね?」
「そこがポイントだよ、フラウ君。今回の催眠魔法を仕掛けるのは誰だい?」
「リダだね」
「じゃあ、それを解除する事が可能なのは、誰だね?」
「…………あ」
フラウはそこで納得した。
「そう。今回の催眠魔法……つまり、私の仕掛けた催眠魔法は、私が解除する事が出来るんだ」
リダは胸を張って言う。
「掛ける催眠魔法も、比較的これまでのカオスドラゴンと同じ性質の物にしようとは考えている……仮に、前の催眠が余りにもしつこくて、私の掛けた催眠魔法で完全に上書きする事が出来なかった時の保険だな? とは言え、これは飽くまでも私が掛けた催眠によるカオスドラゴン。本物ではない……そこで、古い催眠魔法が完全に上書きされた事で消えた事を確認したら、新しい催眠魔法を私が解除する……と、こう言う算段だ」
リダが今回気になったのは、上書きされた事で完全に古い催眠魔法を書き消す事が可能なのかどうかだった。
新しい催眠魔法に上書きし、それを解除したとすれば、上書きされて消えた筈の古い催眠魔法が復活するのではないのか?
ここが疑問であった為、確証を得たかったのだ。
確認の結果……一度、上書きされた催眠魔法は新しい物が全ての権利を支配する為、新しい催眠魔法が解除されると、仮に古いのが残っていたとしても、同時に解除されてしまうと言う結果であった。
一応、この結果は、リダなりの予測はしていた。
だが、飽くまでも憶測の域を越える事はなく、完全な結果を元に行動をする訳ではなかったのである。
そこで、この予測を自分なりに立てる事を可能にした資料……ニイガ魔導全集に書いてあった実験結果を送って貰う為に、ニイガへとちょうど里帰りしたルミへと手紙を書いた。
こうして、予測は確信に変わり、自信を持って催眠魔法を放つ事が可能になった訳となる。
「毒を以て毒を征す……って所か? 上手く行けば、カオスドラゴンの催眠魔法も解く事が出来ると思うんだ」
リダは自信を持った声音で二人へと言った。
今回は確証を得て、しっかりとした根拠を元にしている分だけ、自信のある顔をしっかりと取る事が出来たのだ。
「……そう言う事ですか……流石リダ様です。私ごときには考えも付かない奇抜なアイディアだと思います」
「しかも、かなり大胆だよね……その方法」
リダの言葉に、ユニクスは唸り声を上げてから感銘する。
他方のフラウは、ちょっと呆れた。
その方法であるのなら、確かにカオスドラゴンの催眠魔法を最終的に消滅させる事が可能かも知れないが……余りにも無謀極まる内容である事も確かであったからだ。
仮に、その方法が適用されたとすれば……コーリヤマの街にカオスドラゴンが復活してしまう事となる。
そして、カオスドラゴンと激闘を繰り広げ……弱らせる必要がある。
そのバトルフィールドは、当然ながら街の真ん中と言う事になる。
カオスドラゴンの催眠魔法を解く目的は良いが、そんな事をした日には街への被害は甚大だ。
ハッキリ言って、街の住民からすれば迷惑極まりない騒動になるだろう。
……否、騒動レベルで済めばまだ良いレベルと表現した方がより妥当と言えた。




