最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【2】
「? 何かあったの?」
「……いや、まぁ……そうだな」
キョトとした顔になって尋ねたフラウに、リダは神妙な顔になって口ごもる。
明らかに表情が反転していた。
「リダ様……その手紙には、どんな内容が載っていたのですか……?」
どう考えても様子のおかしいリダを前にして、ユニクスの表情も変えて来た。
「うむ……それが、だな?」
リダは依然として神妙な顔付きのまま返事して、再び口を開いた。
「分からんっ!」
くわっ! と叫んだリダに、
「……は?」
フラウはポカンとなった顔になり、
「……え?」
ユニクスは思わず眉をひそめた。
「だから、分からないんだ! バカなのか? あの姫様は? 小学生みたいな文面書きやがって! ともかく、私が分かる事はニイガで凄く大変な事が起こっていて、イリがピンチになってるって事だけだ!」
リダは遮二無二がなり立てる。
そこで、フラウとユニクスは不思議そうな顔になる。
「所で、イリさんって言うのは誰でしょう?」
「そうだね、私も初めて聞く名前かも」
今一つピンと来ない名前を耳にして、どんな反応をして良いか分からないユニクスとフラウの二人がいた。
「……ああ、そうか。お前らはイリの事を知らなかったか」
二人の反応を見て、リダは軽く納得してみる。
そこで、イリの紹介をしてみた。
「ニイガに住んでる腕利きの賞金稼ぎだ。ツインフェイスデーモンとか呼ばれてる。その名前の通り二つの顔を持つ悪魔で、こいつに狙われた賞金首は
間違いなく殺される。正確に言うのなら顔が二つある訳ではなく、二つの性別があるんだけどな」
「二つの性別?」
「ああ、そうだ。あいつは男にも女にもなる……ついでに言えば、ヤツの相棒でもあるオリオンもそうだ。そこで付いた名前がそれになる」
「へぇ……本当、色々な人がいるんだねぇ」
リダの言葉に、フラウはちょっとだけ驚いた顔しつつも頷いていた。
本当なら、もっと色々なベクトルで驚きの反応を見せるべき所でもあるのだろうが……いかんせん、リダの知人と言う時点で普通とは掛け離れた存在であっても、何も驚かないフラウがいた。
世界中の誰もが驚く驚異的な能力の持ち主であろうと、凶悪なドラゴンであろうと、リダの知り合いと聞いた時点で驚きが霧散してしまい、ちょっと普通ではない人へと変換されてしまうのである。
フラウが持つ、リダへの感覚って一体。
「……それで? そのイリさんがどうかしたの?」
「良く分からないけど、ピンチらしい」
「えぇと……どんな風に?」
「それが分かったら苦労しないんだよ! あの姫様はただピンチで大変だから早く助けに来てとしか書いてないんだ!」
余りにも簡略過ぎて、微妙な顔になるリダがいるだけだった。
「まぁ、ニイガの旅行と言うか……あっちにもウマイ地酒とかあるかも知れないし……冬休みはまだちょっとあるから、こっちの問題を解決したら行こうとは思うんだけどさ……」
もう少し詳細を書いて欲しいと思うリダがいたのだった。
「なるほど……確かに事情は良く分からないけど、ピンチだって事が分かったのなら、放って置く訳には行かないね」
リダが微妙な顔して両手を組んでいた時、フラウがやや真面目な顔になって提案して来る。
直後、ユニクスが相づちを打った。
「そうねぇ……姫様は同じ冒アカの生徒だし、なるべく早く駆け付ける事にして起きましょうか」
肯定する感じで答えたユニクスは、そこからリダへと顔を向ける。
「その一件は、こちらで現在起こっている混沌龍が終わった後にするとして……これからどうしますか? リダ様? 次のダンジョンが解放されるのは翌日なので、本日は休養する事も出来るとは思うのですが……?」
「う~ん……そこなんだがな? ちょっとみかん達と話し合う必要がありそうなんだ」
「話し合う?」
リダの言葉に、ユニクスは少しだけ小首を傾げた。
今後の方針はもう既に決まっていた筈だ。
五大池のダンジョンをフルコンプして、封印の魔法陣を元の完全体に戻す。
最終的な目的は混沌龍……ヒャッカの催眠魔法を解いて、元の優しいお姉さんに戻す事でもあるのだが、ここにリダなりの考えがあった。
正確に言うと、さっき届いた手紙の内容を目にして、現実的に可能であると確信したが故の判断でもあった。
「もしかしたら、封印を根本的に必要としない可能性が出て来たんだよ」
「……どう言う事です?」
リダの言葉に、ユニクスが眉をひねった。
何となく予測を立てる事は出来たのだが、これだけでは完全に理解するまでには至らない。
果たして。
「催眠魔法を完全に解除する魔法を、さっきの手紙で完成させたんだが……その方法だと、相手を精神的に弱らせる必要があるんだよ」
リダは淡々とした口調で説明した。




