【7】
突進して来たういういを前に、十体はいるだろう炎の化け物は、各々の意思でういういへと攻撃して見せるが、全て簡単にかわされるだけに終わった。
ザンッッ!
そうこうしている内に、ういういは一体を一刀両断する。
間もなく、二体目。
そこから三体、四体と、極々当然の様に炎の化け物をぶった斬って行く。
まさに神業級だった。
「なんだ、大した事ないな」
軽く笑みまで作り、悪態を吐く余裕さえあった。
気づけば、十体はいた炎の化け物は全て消滅していた。
「……なんだよ、消えるのかよ。倒し甲斐のないヤツらめ」
倒してから敵の一部を剥ぎ取り、素材として売る腹だった模様だ。
なんだかんだ言って、商魂たくましい。
「お~。なんか早かった~」
「てか、みかん。お前も少しは戦闘に参加しろよ。私だけしか倒してなかったぞ?」
「まぁ、いいじゃないですか~。とりま何かしようとはしたのですが、それより先に終わってしまいましたし~」
実際、みかんがなんらかの行動を取ろうとしていた所で、既に炎の化け物は半分以下にまで減少していた。
この時点で、みかんが戦闘に参加する意味はなかった。
「そんな事より、あれを見て下さい」
みかんが指で軽く示した場所には、階段が。
「ん? いつの間に出来たんだ?」
「さっき、ういういさんが最後のモンスターを倒したと同時に、どこからとなく出現して来たです」
「ほ~」
多分、そう言う仕組みなのだろう。
どう言う造りから、そうなってるのかは知らないし、興味もないが、眼前にある階段を登れば良い事だけは分かった。
現状では、それさえ分かれば十分なのだ。
「よし、それじゃあ今度こそ登るか。流石にマグマがやって来る雰囲気もないし」
「まぁ、別のトラップがあるかもですがねぇ」
もしそうなら、面倒だな……そんな事を二人は考えつつ、慎重に階段を登って行く。
途中、弓矢が飛んで来るトラップが何個かあったが、それ以外は取り立て問題なく登れた。
簡素に言うのなら、
「どうやら、この道で正解らしいな」
ういういは少し確信を持つ感じでみかんに答えた。
みかんも軽く頷きを返してみせる。
「その様ですねぇ……まぁ、油断しない程度に登って行きましょ~」
しばらく階段を登ると、再び門が。
今度の門は他より少しゴツい。
いかにも、この先に何かいますよと言わんばかりだ。
「二階のボスかな?」
「多分、そうじゃない? もう結構登って来たしねぇ」
正直、二階と言うより二層目と表現出来るくらい、結構な高さを登って来ていた。
飽くまでも予測だが、既に塔の中腹近辺まで登って来たのではないかと思われる。
「よし、取り合えず開けて見るか。みかん? 準備は良いか?」
「いいよ~。いつでも大丈夫~」
門に手を掛けながら言うういういに、みかんは能天気な笑みを浮かべながら陽気に声を出していた。
ギギギィィィィッ………
まるで大昔の洋館みたいな、ひしゃがれた音を大きく出しながら門が開いて行く。
その先には……。
「こりゃまた、面倒なのがいるなぁ……」
「およ~」
少し苦い顔になったういういと、地味に驚いた顔のみかんがいた。
どうでもいいが『およ~』ばかり言っていた。
門を開けた先にいたのは、緑の鱗がいかにも固そうなドラゴンだ。
但し、ただのドラゴンではない。
頭が三つ、身体から生えていた。
胴体を中心に、三つの長い首が生えている。
パッと見る限り、そんな表現が正しいと思える。
「あれですかねぇ~。三頭竜とか言うのですかねぇ?」
「五頭竜とかなら聞いた事あるんだけど、そいつらの親戚かな?」
「多分、そうなるんじゃない?」
門から室内に入って間もなく、二人は悠長に眼前の三頭竜を見ながら会話する。
当然、襲われても文句は言えなかった。
『ゴガァァァッ!』
重低音の咆哮を放った三頭竜は、その三つの口から炎を吐いて来る。
「うぉわっ!」
「おふぅ~」
二人は咄嗟にかわした。
その瞬間、三頭の内、一頭が再び炎を吐き出す。
ボゥゥゥゥゥッ!
更に他の二頭が、それぞれみかんとういういを別々に噛みつこうとした。
「ちっ! 厄介なヤツめ!」
けど、素材は高く売れそうだな。
なんぞと、胸中でほくそ笑むういういがいたが、敢えて口にはしなかった。
「とりゃぁっ!」
かみつきを避け、そのまま地を蹴ったういういは、素早く剣を抜いて三頭竜の首を斬ろうとする。
ガキィンッッ!
しかし、固い鱗に阻まれる様にして、剣は弾かれてしまった。