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最下級の冒険者であっても、混沌龍へと挑む事なら出来る【1】

 五つある内の四つを踏破クリアし、残りは最後のゴヒャク池の迷宮を残すのみとなっていた所で、


「……うぅ……ん……」


 ホテルの一室に寝ていたリダの意識が戻った。

 魔法陣の製作によって精根尽き果てたリダは、ユニクスに背負われながらダンジョンを抜け、街にあるホテルのベットで寝かされていたのだった。


 そして、ひたすら眠り続けていたリダの近くには、常にユニクスとフラウの二人が介護するかの様な形で付き添っていた。


 割合的に言うのなら、ユニクスが八のフラウが二と言った所だろうか?

 別にフラウがサボっていたと言う訳ではなく、睡眠時間を抜かす全ての時間を自らすすんでリダの看護を行っていたからだ。

  

 その睡眠時間すら、最初は拒否する形で渋っていたのだが『次のダンジョン攻略の時に、睡眠不足で戦力になりませんでしたじゃ、話にならないでしょう?』と言われたフラウの言葉を耳にした事により、少しだけ睡眠を取る事にしたのだ。


「……あ、ようやく起きましたか。おはようございますリダ様」


 目を覚まし、ぼーっとした顔のまま軽く周囲を見回していたリダを前に、ユニクスは安堵の息と満面の笑みで答えた。

 これは、リダをこのベットに寝かし付けた時に、もうユニクスが自分で決めていたのだ。

 リダが起きた時は、絶対に自分が最初にリダへと笑顔で声を掛けるぞ、と。


 そうすれば、少し位は好感触を持ってくれる!

 ……と、微妙な下心を搭載していたユニクス。

 彼女の妄想世界でのリダは、献身的なユニクスに感動して、凄い事になっていたりもするのだが、当然ながらリアル世界ではそうならなかった。


「私は……どの位、寝てたんだ?」


「そうですね、約二日です」


「二日か……結構寝たなぁ……」


 ぼーっとした顔のまま、未だに視点が定まってない状態で抑揚のない声音を吐き出して行く。

 かなり曖昧だが、頭の中では思った。

 ああ、この調子だと、酒場でダイオーガを飲んでる暇はなさそうだな……と。

 

「私が寝てたのが二日目って事は、明日に最後のダンジョンが開封されるって訳か?」


「そうなります……今日、リダ様が目覚めなかった時は、私はダンジョン攻略を辞退させて頂こうと考えていた所です」


「……ああ、そうだったのか。それは悪い事をしたな」


 ユニクスの言葉を耳にし、リダは苦笑しつつも頭を掻いた。

 魔法陣の製作とは言え、変な所で足を引っ張りそうな状態を自分で作ってしまった。

 それだけに、申し訳ない気持ちで一杯になっていたのだ。


「ふふ……悪くはありませんよ。リダ様の寝顔、とっても可愛かったですし?」


「オイオイ……それは、ちょっと冗談にしてもキツい冗談だろ?」


 ……と言うか、冗談であってくれと、割と切実に胸中で思うリダがいた。


 その時だった。


 ガチャッ!


 部屋のドアが開いた。


 開けたのはフラウだった。


「……あ、リダ。起きたんだね。おはよう」


 上半身だけ起き上がっているリダを見て、フラウは特に驚く様子もなく答えていた。

 顔を見る限り、全然心配とかしてない様に見えた。


「少しは心配してくれても良いと思うんだがな……」

 

 話を聞く限りであるのなら、二日間は寝ていたのだから、起きている姿を見た時にちょっとは笑顔を見せるとか……義理でも良いから、喜びと感動のアクションを作れない物かと考える。


 すると、フラウは平然と答えた。


「え? だってリダだよ? ゴキブリより生命力の高いリダだよ? 死ぬわけないじゃない?」


「そろそろ、そのおかしな認識を矯正してくれないか……?」


 言ったリダは、すこぶる重い嘆息を吐き出した。


 そんな……ブルーな溜め息をトン単位で吐き出すリダがいた頃、その素因を作った張本人は全く気にする事なく右手に持っている手紙を差し出した。


「こないだルミに宛てた手紙の返事かな?……良く分からないんだけど、ニイガの最速便で届いてたよ……てか、ニイガの魔導力ってアホみたいに凄いね……ほうきに乗って来たんだけど、弓矢みたいな勢いで飛んで来て、やっぱり弓矢みたいな勢いで居なくなってたよ」


「……まぁ、ニイガの箒乗り郵便は、時速三百キロで飛ぶらしいからな……」


 そこで付いた名前が『彗星便』だった。

 文字通り、ほうき星の様な勢いで飛んで来ると言う事から、この名前が名付けられた。


「まぁ、いいや。とにかく見せてくれないか?」


 アンチョコも程々に……リダはフラウが手にしていた手紙を貰う。

 受け取って軽く中を読むと、リダはにんまりと笑みを浮かべた。


「お~。良いね、良いね! やっぱり私の理論は正しかった!」


 手紙と一緒に入っていた本を読んで、リダは誰からも分かる明るい笑みを浮かべていた。


 本は下手な辞典よりも大きな分厚い本なのだが、封筒に圧縮魔法の様な物が掛けられており、封筒の口を広げて手を突っ込んだり、封筒を逆さまにすると出て来る。

 あらかじめ、本も入れられる様にリダが返信封筒に魔法を掛けておいたのである。


 そこらはさておき。


 内容は、催眠魔法を解除する為の解除法だ。

 一応、理論と言うか……解除の仕組みは理解出来ていたのだが、曖昧な部分も若干存在していた為、その確認をする為に手紙を送っていた。

 そして、その曖昧な部分が、この瞬間に確信へと変化する。

 故に、リダは素直に満面の笑みを作り出した。


 ……が、しかし。


「…………は?」


 間もなくポカンとなった。 

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