【21】
「流石はリダ様だ……ダンジョンボスを相手に、召し使い以下の扱いをするとは……」
もう完全に足で女性を蹴り飛ばしていたリダを見て、ユニクスは戦慄を覚えているかの様な表情で言っていた。
これにはフラウも納得だったらしく、
「そうだね……こんなのリダしかしないと思う」
「うるさいよ、そこの二人っ!」
ユニクスの言葉に素早く頷いた所で、リダに喚かれた。
「大体……コイツがふざけた事言ったせいで、私がどれだけ恥ずかしいポーズや発言を連続でやったか……」
リダは右手こぶしを握りながら、ワナワナと身体全体を震わせて、怒りのボルテージ具合の高さをボディーランゲージで表現していた。
「恥ずかしい? いいえリダ様。考えを改めましょう。とても愛くるしくて可愛かったですから!」
すると、ユニクスがいつになく気合いを入れて反論して来た。
これには、リダもちょっと面食らう。
「可愛いかどうかは置いといて、とりあえず絵的には問題なかったと思うよ」
そこで、フラウの客観的な意見が転がって来た。
リダの眉がよじれた。
「可愛いかどうかを置くなよ! そこって、すごーく重要だろ? リダさんはそれなりに美人だと自分では思ってるんだからなっ!」
「それを自分で言わなかったら、もっとよかったのにね」
「仕方ないだろ! 誰にも言われないんだからっ!」
それって美人じゃないって事になるんじゃ……? と、フラウは思わず口に出しそうになったが、ちょっと可哀想だったから言うまでには至らなかった。
そんな中、リダの前を歩いていた女性が声を開く。
「到着しました! ここが、ダンジョンの最深部になります」
言うなり、女性は笑顔で答えた。
「……さっきいた部屋と、何も変わらないな」
「少しだけこっちの方が広いと言いますか、実はあっちはダミーでもありまして……向こうで魔法陣を作ると、ほんの少しだけ魔法陣が小さくなるなるのですよ」
「……なるほど、そう言う事か」
「どういう事?」
女性の言葉に、リダが納得する中……今一つ違いが分からないフラウが、ハテナ状態になってリダへと尋ねて来た。
「簡単に言うと、だ? 魔法陣が成立しないんだよ」
「成立しない?」
「魔法陣って言うのは、実は発動させる魔法によって決められた広さが必要なんだよ」
つまり、微妙に小さくする事で、魔法陣の製作を阻止する事が可能となる。
「へぇ……知らなかった」
「まぁ、普段はそこまで意識しないだろうし、広さを意識しないと行けない様な巨大魔法陣なんか、そもそも作る機会がないからな」
「そうですね。私も、広さを意識しないと行けない魔法陣の作成なんて初めてかも知れません」
苦笑する感じで言うリダがいた所で、ユニクスも相槌を打った。
そこで、リダが意外そうな顔になる。
それは、広さを意識しないと行けない規模の魔法陣作成が初めてだと言う事に意外性を持った訳ではない。
そこ自体は珍しい事ではなく、リダ自身も滅多にやらない事だと思っている。
ポイントとしては次だった。
「なんだ? ユニクスが作るつもりだったのか? それなら私は横で見ているが?」
「…………え?」
ユニクスはポカンとなった。
口ぶりからすると、ユニクスが魔法陣を作るつもりだった感じであった為、そうとリダは言って来たのだ。
「正直さぁ? こんなアホみたいな魔法陣作るの、乗り気じゃなかったんだよな~? だってさ?」
言うなり、リダは右手を軽く前に出すと、
ポンッ!
白い煙と同時に、一枚の紙が出現する。
見る限り、それは魔法陣の設計図の様子だ。
リダは設計図を手にすると、そのままユニクスに手渡した。
取り敢えず、ユニクスは設計図を見る。
「………」
言葉が出なくなった。
見る限りだと、具体的に図柄で描かれている魔法陣の設計図なのだが……見事な魔導式の羅列が、尋常ではない複雑さで緻密に書かれている。
中には、ユニクスには理解出来ない様な特殊記号まで書いてあり……設計図の筈なのに、それを元に作成出来る自信が全くない。
「下手な超魔法より複雑な魔導式ばっかツラツラ書いてあるだろ? 一応、みかんが自分なりに分かりやすく、最速で発動させやすい魔導式を元に書いてくれたらしいんだけどさぁ……それでも、これだぞ?」
「…………そ、そうですね」
「そんなに凄いの? ねぇ、見せてよ?」
口元をヒクヒクさせるユニクスを前に、フラウが軽く設計図を覗き込んた。
もしかしたら、ようやく自分の出番がやって来たかも知れない!
フラウは魔導式を組み立てる事が得意だ。
前回の期末での、魔導式テストだって98点と言う好成績を残している。
それだけに、ここで良い所を見せたいと躍起になって設計図に目を通した。
そして、三秒で石化した。
ゴルゴン要らずの石化っぷりだった。




