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こうして私は無双する・みかんVer  作者: まるたん
最下級の冒険者と最頂点の冒険者
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【20】

 だからだろう。 


 カグは自分でも無意識に笑顔を作り出していた。

 にっこりと、笑顔になった状態で言えた。


「私が嫌だったのは、カサブが私を殺した事じゃないんだよ? カサブよりヒャッカ姉を選んだ事が嫌だった……ううん、怖かったんだ」


「怖かった?」


「そうだよ……私はね? カサブの様にお姉ちゃんとかいる訳じゃないから……だから、カサブは私にとってずっとずっと一緒にいてくれる特別な存在だった。私の事を誰より理解してくれてる味方だと思ってた」


 そこまで答えた時、カグは目線を下に落とした。


「……だから、裏切られた時の絶望感は途方もなかったんだよ」


 力無く……呟く様に言う。


「……そうか、そうなるんだね……」


 カグの言葉を耳にして、カサブは瞳を閉じた。

 まるで瞑想でもしているかの様な態度を見せてたいたカサブは、いつの間にか涙を流していた。


「そうか……僕は、僕自身も知らない間に、君へと死以上の絶望を味あわせていたんだね……本当に本当にごめん……謝って許される事じゃないと思うけど、僕には二度とカグを裏切らないと誓う事しか出来ない……これで許してはくれないかな……?」


「……裏切らない? 本当に?」


「ああ、本当だよ」


「本当の本当に?」


「本当の本当だよ」


「本当の本当の本当に?」


「ストラップだカグ!」


 そこでシズの待ったが入った。

 正確に言うと、ストラップが入った。

 ……ストラップが入るって何だよ? と言いたくなるシーンだ。


 しかし、シズが真剣だったせいか、ストラップのツッコミを入れる者は誰もいなかった。

 つまり、真剣にボケていたのだ。


「う~。カグ……気持ちは分かるが、疑い過ぎだと思う」 


 ついでに言うのなら、ここで誰かがストラップ……もとい、ストップを掛けないと『本当』の単語が無秩序に量産されて行くだけの押し問答になりかねない。


「もう少し、カサブを信じてみよう……きっと、今のカグにはとても大切な事だ。う~!」


「そ……そうだね。うん、分かった。信じて見るよ!」


 再びグッジョブしてたシズに、カグもグッジョブで返してみせた。

 真剣にやっている筈なのに、何故か緊迫感はなかった。


「分かったよカグ……もし、僕が君の事を裏切った時は……」


 そこまで答えたカサブは右手から、


 ポウゥゥ……


 淡い水色の光を、仄かに放って見せる。

 程なくして、右手の光が一本の短剣に変化する。


 右手の上にフワリと出現した短剣は、そのままゆっくりとフワフワ浮遊しながら、カグの目前にまでやって来た。


 そして、真剣な眼差しをカグに向けたまま口を動かした。


「その短剣で、僕を刺して欲しい」


「………」


 カグは、眼前にまでやって来た短剣を無言のまま手に取ってみる。

 ほんのり、魔力を纏った不思議な短剣だった。

 

「その短剣は、僕の身体はもちろん、魂その物を消滅させる力があるんだ。一撃で僕を殺す事だって出来る」


 答え、カサブはやんわりと笑った。


「………」


 他方、カグは無言のままだった。

 しばらくすると、自分の手に収まった短剣を、そのままカサブに返して見せる。


「こんなの要らないよ。私は別に誓約書を書いて欲しいと言ってる訳じゃないもの。純粋に今まで通りのカサブでいてくれたら、私はそれ以上の事は望まないし」


「……そうか」


 穏和に語るカグがいた所で、カサブは彼女から短剣を受けとると、一瞬で受け取った短剣を消滅させた。

 ちょっとしたマジックを見ているかの様な消え方だった。


「……なら、約束する。これが僕の、せめてもの償いだ」


「……約束?」


「うん。約束」


 キョトンとした顔になったカグを前に、カサブは緩やかな笑みを作った。

 そして、再び口を開く。


「僕は、今後絶対にカグを泣かせないよ」


「……っ!」


 カサブの言葉を耳にして、カグはハッと息を飲む。

 ワンテンポ置いてから、カグの瞳に涙がじわりと滲んで来た。


 きっと……カグが望んでいた言葉は、これだったのかも知れない。

 特に言わせたかったと、意図していた物ではなかった。

 けれど、思う。


「……うんっ! 約束だよっ!」


 カグは涙を手で拭いながら、満面の笑みをカサブに見せたのだった。




   ●○◎○●




 場面は切り替わって。

 こちらはリダチーム。


 リダ達もダンジョン攻略の佳境を向かえていた。

 ……と言うか、攻略的には終了したと述べて良い。


 理由は、この迷宮の主なのだろう女性を、


「さっさと歩け……こっちは、お前の下らない茶番のせいで、かなり遅くなったんだからな!」


 地味にイライラした顔で蹴り飛ばしながら、早足で急がせているリダの姿が全てを語っている。

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