【18】
所が、そうはならなかった。
何故か?
理由は色々ある。
だが、一番の決定打は、カサブが意気地無しであり……かつ、姉にそそのかされた事だ。
彼の姉は、混沌龍のヒャッカだった。
ここが大きな悲劇を生むのだ。
彼としても、姉は助けたい。
街の人間達を思い遣り、敬い、労る姉の姿は、弟であるカサブにとっても誇らしい事だった。
何より、自分の姉だ。
助けたい気持ちは人一倍である。
故に、カグが持ち込んだ話には喜んで賛成したし、むしろ協力したいとパーティーの中に入った程だ。
だが、実は違った。
カグがカサブ達の元を訪れるより少し先に、催眠魔法を受けたヒャッカ……つまり、混沌龍が彼の元を訪れていたのだ。
そして、カサブを騙して行く。
混沌龍のヒャッカはカサブに言うのだ。
『もうすぐカグが私を裏切って封印しようとして来る。お前は私が封印されても良いか? 良くないだろう?……なら、お前はこれからカグ達と一緒に協力するフリをして、頃合いを見つけたら……カグを殺すのだ』
この言葉に、カサブは困窮した。
どんな状態になっても、姉は姉だった。
何より、カグが催眠魔法を喰らったヒャッカを封印してしまおうと言う大それた真似を本気でやろうとしていた事にも疑念を持った。
幾ら催眠魔法でおかしくなっていたとしても、封印までしなくても良いのではないか?
もっと、別の方法がなかったのか?
そもそも、みかんやシズにも疑念がある。
封印をした後、ヒャッカの精神に潜って催眠魔法を解除すると言っているが……果たして、この言葉にどれだけの信憑性があるのだろうか?
本当は、ただ姉を封印したいだけのでまかせなのではないのか?
カサブの心中に、あらゆる疑念が渦まいた。
そして、カサブの元へと度々やって来たヒャッカ。
ヒャッカは、みかん・シズ・カグの三人とパーティーを組んでから以降も、みんなの視線を巧みに盗んでは、カサブに顔を見せにやって来ては……言うのだ。
お前は騙されている……と。
……結局。
カサブは姉の助言を選択してしまった。
そして、悲劇が起きてしまうのである。
封印の五大池がある迷宮……その最後にあったダンジョンにて、カサブはカグと二人きりの状況を上手に作り出し……そして、彼女を殺すのだ。
完全な味方だと信じていたカグは、無防備に彼の元に近づき……そして、腹をえぐられてしまう。
何が起きたか分からなかった。
自分の眼前にいるのは、何百年と言う長い付き合いのある幼馴染み。
そして、この冒険が終われば、あるいは恋人から夫婦に発展して行くかも知れない最愛の存在。
信じていた。
カサブだけは、何があっても自分の味方であると。
疑うと言う概念が、そもそもなかった。
ただ、愛しいと言う気持ちさえ持っていれば、それで全て問題ないと本気で思っていた。
……しかし。
現実は違ったのだ。
こうして……カグは、カサブの裏切りにより……息絶える事になって行くのである。
その後、カグは三千世界の果てを一時的にさ迷い……しかし、この世界へと再び戻って来る。
ここは人間と神様の違いと言うべきか?
常人であるのなら、死後は魂のみになって飛んで行ってしまう。
そして、記憶をリセットして再び転生し、また違う世界に生まれたりもする。
中には転生しない者もいるし、そもそも転生出来ない浮遊霊染みた存在もいるが……そこはさておき。
魂のみになっても、己と言う自我をしっかり持っていたカグは、元々いた自分の世界に戻る事だけを考えていた。
そして、遂にその時が訪れるのだ。
カグは自分が守護者である事を知っていたが故の事だ。
簡素に言えば、五十年待てば良い。
これだけで、ダンジョンは復活するし、自分もちゃんと元通りになる。
こうして、現在に至るのだ。
……はてさて。
短くするつもりが、やっぱりちょっと長くなってしまった昔話もここまでにして。
シズの背中に隠れていたカグであったが、ここに来てようやく意を決する形でカサブの元へと向かってみせる。
けれど、やっぱり顔は青ざめており、かなりの緊張と恐怖でごちゃごちゃになっていた。
久しぶりに会う幼馴染み。
……愛しさだって色褪せていない。
そこから来る、気恥ずかしさが妙な緊張感を産んでいた。
反面、信じていた者への裏切りから来る恐怖もある。
……そう。
それは恐怖なのだ。
カグにとって、何より怖かったのはカサブの裏切り行為だ。
殺された事、その物よりも何よりも……純粋に姉のヒャッカを選んだ事。
この行為が、カグにとって何よりの恐怖だった。
結局は、何処まで行っても……カサブはカグではなく、ヒャッカを選ぶ。
また同じ事をされたら……もう、永遠に立ち直れない。
よって、カグにとって死ぬ事よりも怖い行為であったのだ。




