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こうして私は無双する・みかんVer  作者: まるたん
最下級の冒険者と最頂点の冒険者
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【17】

 ここで、少しだけ昔話に付き合って頂きたい。


 なるべく短くはする予定だ。

 ……長くなったら……ごめんなさい。


 閑話休題。


 それは、今から五十年前。


 当時、混沌龍カオスドラゴンを封印する形で、みかんやシズの二人とダンジョン攻略をしていたカグ。

 偶然ではあるが、最初のダンジョンで出会ったカグは、二人を助ける形でパーティーの中に入った。


 目的は封印ではあったが、この時点では最終目的が別に存在していた。


 それは、混沌龍カオスドラゴンのヒャッカを、元の優しい女性に戻すと言う事だ。

 これが最終目的として存在していたのである。


 現時点だと、ヒャッカの掛けられた催眠魔法を解く方法が分からない。

 正確に言うのなら、かなり限られた方法しか残っていなかった。


 理由は色々ある。

 まず、魔法の種類だ。

 ネックは催眠魔法であった事にある。


 催眠魔法と言うのは、実にタチが悪い魔法で……下手な呪いより面倒な仕組みになっている。

 脳の一部を完全に支配する形で発動し、神経の細部に至るまで完全に根を張るかの様な形で……脳にこびりついて来るのだ。

 この催眠魔法を解除するには、脳神経の細部にまでこびりついてしまった魔法を全て除去しないといけない。


 ここまで来ると、極めて困難な脳手術と同じレベルで……一つ間違えるとヒャッカの意識が戻らない危険性もある。


 ……この様に。

 ヒャッカの催眠魔法を解くのは極めて困難な状態であり、不可能に限りなく近いとされた。


 だが、しかし。


 それでも、全くの方法がないと言う訳でもなかった。


 ここで、みかんはカグやシズの二人に提案するのだ。

 今の状態で混沌龍カオスドラゴンを元のヒャッカに戻す方法は、直接ヒャッカの精神に飛び込んで説得するしかない……と。


 つまり、ヒャッカの深層心理に潜り込んで、直接本来のヒャッカを呼び戻すと言う方法だ。

 但し、この方法は実に危険な賭けでもある。

 この場合だと深層心理へと潜り込んだ方にも危険が及ぶからだ。


 精神世界は下手なダンジョンより大変だ。

 何より一番の問題は、相手のテリトリー……ここでは、ヒャッカのホーム的な場所である事だ。

 相手の精神世界に潜り込んだは良いが、完全アウェイな状況で……理不尽なまでに不利な世界に自分から突っ込んで行く事になる。

 

 挙げ句、夢を見ている様な不思議な感覚に包まれているが、実際は夢でもなんでもない。

 精神世界で殺されてしまえば……そのまま、自分の精神が死んでしまう。

 精神だけが死亡し、脱け殻と表現しても良いだろう身体のみが息をすると言う、極めておかしな状態となる。

 ……当然、二度と目を明ける事のない、肉の人形と化してしまうのだった。


 この様な大変なリスクを背負っても尚、カグはヒャッカを助けたいとみかん達に懇願した。

 ヒャッカの深層深層へのダイブは、シズやみかんもするだろうが、それだけではきっとヒャッカの心を完全にこじ開ける事は難しい。

 そうなれば、カグがヒャッカの深層心理へとダイブする事は必然であった。


 それでもカグは……ヒャッカを助ける選択肢を選んで行く。


 こうして、ヒャッカの深層心理へとダイブする方向で、話が決まって行くのだった。


 彼女の深層心理にダイブするに当たって、現状のままだと不可能に近いと言う結論に至る。

 邪悪な龍として暴れまくる混沌龍カオスドラゴンの中に飛び込む事は不可能に近い。


 そこで、封印して混沌龍カオスドラゴンの身体を封じ、動けなくなった所で彼女の深層心理へとダイブしようと言う段取りが生まれたのである。


 ……だが。


 ここで、思わぬ伏兵が出現する事になろうとは、この時のカグはもちろん、みかんやシズにも予測する事が出来なかった。


 上手く行けば、元のヒャッカに戻る日がやって来るかも知れない。

 希望を胸にやって来た、カザブの迷宮。


 難易度は極めて高いダンジョンではあったが、どうにか切り抜けたみかん・シズ・カグの三人は、ダンジョンの最深部にいた守護者のカザブと遭遇する。

 この時点で既にカグが仲間に入っていた事で、戦闘になる事はなかった。


 ……この時点では。


 しかし、既に始まっていたのだ。

 ……惨劇の起点が。


 話を続けよう。


 カグとカザブは、人間の物差しで考えると途方もない付き合いのある、悠久の幼馴染み。

 その長さは数百年にも及び……長い間、恋人未満友達以上の関係を築いていたのだ。


 実に気の長い話ではあるのだが、人間の観点で物を語るとそう見えると言うだけの話で、土着の神でもやはり神様だけに、時間の感覚は常人とは大きく異なる部分が山の様に存在していたのだ。

 

 けれど、思う。

 実は互いに思っていた事。

 でも、言う事がどうしても言えなかった事。


 その気持ちを互いに言っていれば、もしかしたら違う未来があったかも知れない、悲しい感情。


 愛情がそれだ。

 恋情でも良い。


 二人は互いに相手を慕っていた。

 ほんの少し……あとちょっとのキッカケさえあれば、後は幾らでも自分の気持ちを解き放つ事が出来た。


 …………筈だった。

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