【14】
「へぇ……今回のダンジョン攻略者は、かなり活きが良いのねぇ……」
声がした。
確実に聞いた事のない声がした事で、
「……っ!」
ユニクスとフラウの二人が警戒して見せた。
「……ん?」
他方、リダだけがいつも調子で声がした方角を見据える。
胆が座っていると述べる事も出来るが、単なる能天気とも表現出来た。
「誰だ? お前は?」
リダは、これまたいつも通りの口調で口を動かして見せる。
眼前にまで近付いて来ていた一人の女性を見据えながら。
「多分、ここまで来れたのなら、わざわざ言う必要はないと思うけど?……そうね? 名前だけでも名乗ろうかしら?」
「うーん……お姉さま?」
妖艶な笑みを色濃く作って言う女性に対し、リダは特に悩む素振りもなく言って見せた。
「なんでそんな名前になるのよっ!」
案の定、三秒でツッコミを喰らった。
「え? だっておネエ言葉使ってるし。まぁ、そっちの言葉の方が女を表現するには適してると言うか、分かりやすい表現だとは思うから、私は否定はしないけど……けどさぁ~? 今時、そんな言葉使う女いるか?……いないよな?」
「うるさいわよっ! 世界によっては、まだまだ現役なの! 分かるでしょ? この言葉の意味は、私は女の子なのよ! どう? 私、可愛いわよね? と言う、深い意味を込めているのよ!」
「……そ、そうか……うん、ありがとう。もう聞かなくても良いや」
「どうしてお礼とか言うの! 分かってないわよね? そうよね? ここは分かって貰えるまで通さないわ。私が使う言葉のステキさを存分に理解してくれない限り、通さないんだからっ!」
「……うぁ、何このラスボス」
プンスカ怒る(しかも微妙に可愛く意識している)女性に、リダは辟易した顔を作った。
下手な強敵より面倒だった。
むしろ、そっちの方がマシですらある……そんな事をアストラルなリダが答えを紡ぎ出していた。
「リダ様。ここは素直に倒すか、不本意ながら彼女の言葉を絶賛するかの二択かと」
「そうだね……こ、ここは女言葉を肯定しても良いんじゃないかな……って思うけどねぇ……私は」
ユニクスとフラウの二人が助言する形でリダへと声を向ける。
「うーん……」
リダは両腕を組んで考えた。
女言葉を肯定する。
これだけで戦闘を回避出来る可能性が高まる。
そして、否定するつもりもない。
ここだけを考慮すれば、悩む必要など皆無だった。
女言葉を使うのは、その人の自由だからだ。
むしろ、使うなと答える方が大きく間違っている。
しかし、問題は次だ。
だからと言って、強要されたくはない。
「女言葉の素晴らしさを熱く語られるとして……それを、誰が聞くって言うんだ?」
リダの質問に、ユニクスとフラウの二人は真剣な顔をしてリダを指差した。
リダを指差すのに一秒を必要としていなかった。
真剣な顔が示す言葉は、完全にこうと言っている。
『そんな講釈なんか聞きたくない!』
「いや、私だってごめんだよっ!」
リダは即座に反発して見せた。
「ふぅ~ん……じゃあ、私は貴女達を通さないわよ? それだと困るのよね? 違ったかしら?」
「やべぇ……言葉だけじゃなく、性格もおかしい」
「なにか言ったかしら?」
「い、いやいや! うん! 女の子って言ったら、やっぱりそのノリよね~。分かる、分かるわ~」
ジト目で言って来た女性に、リダはあたふたしながらも、精一杯の協調を見せた。
けれど、内心で思った。
……もうこれ、私じゃないだろ?
しかしながら、現状を考えれば胸中での思考を意図的に抹消しなければならない。
「分かって来たじゃない! そうよ、そう言うノリこそが命なの!」
「どう言うノリだよ……」
「なんか言った?」
「う、ううんっ! なぁ~んも言ってないわよ? そうよね! うん、大丈夫よ。分かってるから」
心の中では、わかんねーよっ! とか言ってたけど、全力で封印してた。
「そう? 良かったわ。なら、そうね? ここは女の子の基本と言うか、可愛いしぐさを女の子らしくやって貰う事で、私も信じようかしら?」
「…………は?」
「何よ? やっぱり口だけ?」
「う、ううんっっ! や、やるわっ! やるから見ててね!」
その後、リダは女性が出題して来る、やたらキラキラしてる感じのポーズを色々と取るはめになった。
果たして。
「リ、リダ様! か、可愛い! 可愛い過ぎです! ああ……なんて事でしょう……ちょっと、違う世界……そう、新世界が見えました!」
その後も、女性に必死で合わせていたリダがいた所で、ユニクスの思考に新世界が生まれて行く事になって行くのだが……余談だ。
そして、この新世界を創造してしまった事がキッカケで、リダ本編では幾度となく爆破されてしまう事もまた、余談程度にして置く。




