【13】
「なるほど、言いたい事は分かったよ。ただ、もう少しだけ心の準備が欲しいと言うか……あはは、自分でも情けないと思うんだけど、もしカザブと会っても……何て声を掛けて良いか分からない感じなんだよね」
カグは苦笑してシズへと答えた。
けれど、さっきまでの何処か塞ぎ込む様な顔から比べると、だいぶマシにはなったと言えた。
「う? 簡単にして単純だ。一発ひっぱたいてやれば良い。そして言う『二度とやらないで欲しい』と。これでカザブが頷いたら仲直り。これで良いと思う」
「そんな簡単に行くかな……?」
「行く!」
不安ばかりの顔を見せるカグに、シズはソッコーで断言して見せた。
もう、足し算の答えを言うよりも早かった。
「ともかく、そんなに浮かない顔はしない事だ。そんな顔をしていたら、カザブだって落ち込むし困るだろう……人の態度は自分への鏡でもある。相手が笑えば自分にも笑顔が生まれるし、相手が怒っていたら自分だって良い気分にはならない。その状況にもよるが、最初から浮かない顔を見せられて良い気分にはならないだろう? 笑って話して見ると良い。う~」
「……そうか、うん。そうかも知れないね!」
アドバイスを送る形で言ったシズに、カグは半ば強引ながらも笑みを作ってみせた。
凄くぎこちない、不自然極まる笑みではあったが、さっきの表情から比べれば数段良くなっていた。
「その意気だ、う~!」
「うん! 頑張る! シズですら結婚して子供産めたんだもん! 私にだって出来るよね!」
「それはすごぉぉぉぉぉぉく失礼! う~~~っ!」
希望が見えて来た顔のカグに、シズは半べそになって抗議していた。
カザブ池のダンジョン攻略は、こうしてムカデ爺の背中で会話しながら消化(?)して行くのだった。
◎○●○◎
場面はまたも切り替わり。
こちらはリダチーム。
余談だが、文節を区切るマークは、各Ver共通だったりする。
丸がリダ、三角がみかん、四角がイリだ。
これに気付いていたアナタは素晴らしい!
……閑話休題。
二層目を踏破し、下への階層へと降りたリダ・ユニクス・フラウの三人は、おおよその予測通りにダンジョンの最深部に到達していた。
「ふぅ~む。どうやらこのダンジョンは基本的に三階層になってる見たいだな」
「その様ですね。五十年周期のダンジョンにしては、かなり浅いダンジョンかも知れません」
「え? 五十年?」
ユニクスの言葉を耳にして、フラウは唖然となる。
これは冒アカでも習う、冒険者の基礎知識でもある為、フラウもそこそこ知っていた物だ。
「確か、周期の長さって……難易度の高さと比例してたよね?」
「まぁ、一部の例外こそあるけど、そう言う事になっているな」
素朴な質問をポソリと吐き出したフラウに答えたのはリダだった。
「実際、五十年周期ダンジョンで言うと、やや簡単な方かな? ただ、相場的に言うとこんな物かなって感じもある……まぁ、私の感想でしかないんだけどな?」
「これで、やや簡単なのですか? かなり簡単の間違いでは?」
「……いや、二層目にいた金剛石魔導人形や、同じ二層目の雑魚で出現した鋼鉄魔導人形とかの実力を考えると、突破に必要なレベルと言うか……冒険者ランクは、S+からSS-程度のステータスを持ってないと全滅しかねない。ここから判断すると、五十年周期レベルの中ではやや簡単と表現するのが妥当かな?……と私は思う」
「最低ラインがS+以降のダンジョンか……」
冷静に分析する形で答えたリダに、フラウは納得半分……呆れ半分に答える。
そもそも、Sランクになる事だって、普通に考えれば超難関レベルなのだ。
D帯があってC帯に昇格してBに上がり、更に強さを認められてAクラスのマイナス(A-)になれる。
このレベルだって、一般的な冒険者からすれば高嶺の花。
完全な上位ランクの冒険者なのだ。
更に別次元の実力と名声を上げると、マイナスが消えて無印になり、プラスがついて行く。
その先に見えて来るのが、S-なのだ。
これでようやくS帯である。
S+は、当然このS帯冒険者から選り抜きの功績と実力を認められた者となる。
それが最低ラインのダンジョン。
冒険者の知識を学校で教わっているフラウからすれば、頭が付いて行けないレベルだった。
高嶺の花どころか大気圏突入である。
「しかし、そうなると……リダ様は別としても、私もそれなりの実力が既にあると言う事になってしまうのですが……矛盾しておりませんか?」
ユニクスは眉根をよじって言っていた。
自分で気付けない物なのかと、フラウは言ってやりたい。
「私を別にしてるのが甚だ不本意だが、ユニクスは既にS帯どころかL帯に入ってる……挙げ句、これでも勇者としての神託を受けてない、言わば覚醒前と来ている……くそ、どの世界でも勇者は反則なんだよ」
リダは苦い顔になってぼやいた。
いや、あんたも十分反則だよ……と、フラウは胸中でぼやいた。




