【10】
「私の存在って……一体」
素朴な疑問をポソリと口にしながらも、ダンジョン攻略はサクサク進んで行く。
この迷宮を造った存在からしても、圧巻の勢いだ。
途中に出て来たトラップも『え? 何かしたの?』と悪びれた風もなく解除するリダ。
もうリダが先頭にいれば、それで万事解決してしまう勢いだ。
どこをどんな風にしてるのかなど、近くにいたフラウにすらサッパリではあったのだが、確実に言える事が一つだけある。
この世に存在するあらゆるトラップなど、リダからすれば手の込んだお飾りに過ぎないと言う事だ。
そんなこんなで、世界樹の杖をただ持っているだけのまま、二層目の最奥なのだろうエリアにまでやって来た。
「……まぁ、どうせ立ってるだけで終わるんでしょうけど」
もう、フラウのテンションはダダ下がりだった。
なんか、いるだけに等しいフラウは、やる気の欠片もないまま、視界の開けた場所に立っていた。
見た限りだと、先ほどの一層目の広間と同じ様な造りになっていた。
やっぱり、如何にも如何にもな闘技場っぽい広間だ。
上を見れば、やっぱり同様な高さがあり、予測通りならそこから巨大な魔導人形がドドーン! とやって来るんだろう。
思って、フラウは上を眺めていたのだが……。
「降ってこないね」
「そうだな」
上からのアクションがやって来ない為、不思議そうな顔をしていたフラウに、リダもやっぱり不思議そうに頷きを返していた。
「……あら?」
そこでユニクスが何かに気付く。
彼女の視点があったのは、下だ。
ガコンッ!
その瞬間、床が盛り上がり、中央の床が円盤状になって虚空に浮き上がる。
浮き上がった元の床だった部分は底の見えない大きな穴になっていた。
「……なんだこれは?」
リダは不思議そうな顔のまま、穴になっていた部分を覗きに行った。
その瞬間、穴から何かが飛び出て来た。
「おわっ!」
いきなりの事で驚いたリダは、そのまま二~三歩程、後ずさりして見せた。
「び、びっくりしたなぁ……もう」
まるでびっくり箱でも開けてしまったかの様な顔になってドキドキしていたリダがいた所で、
ズシィィィンッッ!
穴から出て来た謎の物体が広間に着地して、周囲に激しい重低音を響かせていた。
同時に、これまで浮いていた円盤状になっていた床も元の位置に戻って、ただの床になる。
現れたのは、全身が金剛石で作られた強大な魔導人形だった。
「今度は金剛石魔導人形か?」
「どうやら、その様ですね」
中央に聳える様に立っていた巨大魔導人形を前に、二人は悠長な会話をしていた。
ああ、またこのパターンか。
フラウはもう驚かなかった。
どうせ、もう既に何発か攻撃をお見舞いしていて、出現したと同時に機能停止していて、現在は絶賛漬け物石してるのだろう。
金剛石で出来ているのなら、とても上質な漬け物石かも知れない。
そんな事を考えていた時だった。
『グォォォォォンッ!』
今度はちゃんと動いた!
「……あら、百発は殴ったのに……タフですね」
「百発も殴ったのかい!」
目をぱちくりさせて言うユニクスに、フラウは思わず大声で叫んでしまった。
彼女が見ている限り、とてもユニクスが魔導人形に攻撃をしていた様には見えない。
その攻撃力も去ることながら、攻撃している根本的な素早さが桁違い過ぎて、フラウには肉眼で追う事が出来なかった。
きっと、今のユニクスと喧嘩などしたら、何されたか分からないまま、ボコボコにのされて終了してしまうだろう。
まさに脅威的な身体能力である。
とにかく、今度はちゃんと動いた魔導人形は、手始めに一番近くにいたリダに標準を絞り、右手の拳を振り上げた所で、
超炎熱爆破魔法!
ドォォォォォォンッッッ!
凄い勢いで大爆発した。
もう、なんかその魔法は封印しても良いんじゃないかって、フラウは思った。
余りにもチート過ぎる!
超炎熱爆破魔法の直撃を喰らった金剛石魔導人形は、アッサリと粉々になって、
ドシャッッッ!
ガラガラガラッ!
物凄い音を立てて瓦解して行った。
「……ふ~むぅ」
その状況を見て、リダは少しだけ神妙な顔になった。
不思議と少しだけ余裕が無くなった……そんな表情にも見えた。
「どうしたの? 弱気な顔するなんて、リダらしくもない」
「私を何だと思ってるんだよ……まぁ、良い。私なりに甘く見ていたと反省したんだ」
リダはちょっとだけ申し訳ない顔になっていた。
「ユニクスの言葉が正しいってトコかな……油断大敵だ。次はもう少し本気でやる事にするよ」
リダは苦笑して答えた。
瞬間、フラウとユニクスの頭上に大きなハテナが浮上した。
リダの言葉がそのままであるのなら?
「今のでも、まだ……本気ではないと?」
フラウはもちろん、ユニクスも唖然となる。
それにリダは当然の様に返事した。
「は? 当たり前だろ?」
リダの言葉に、二人はただただ絶句する事しか出来なかった。




