【8】
『君達はカグちゃんのお友だちかな? それなら話は早い。さぁ、みんなで私の背中に乗りなさい。カサブの所まで案内してあげよう』
「お~」
「そいつは助かる!」
ムカデ爺の言葉にみかんとういういの二人が嬉しそうに声を出した。
「う!」
そこで、シズはまたもキュピーン☆ と瞳を輝かせて一万マール札を出していた。
『いやいや……ワシにも多少の蓄えはあるんでな。老後の心配をしてくれてるのかも知れないが、そのお金は美人のお姉さんが使った方が良い』
ムカデ爺は、一杯ある足の一本を腕代わりにする形でブンブンと横に振って見せた。
意外とジェントルマンだった。
そして、ちゃんと老後の蓄えもあるらしい。
なんてしっかりしたムカデなんだろうか。
果たして、迷宮に住んでいる巨大ムカデが人間の使うお金なんか持っていても役に立つのだろうかと言う根本的な謎を心に秘め、みかんチームはムカデ爺の背に乗って雪山を進んで行く。
途中、いかにも獰猛そうな白い虎がいたが、にっこりと笑う(?)感じの態度で、悠々とムカデ爺に前足を振っていた。
多分、本当なら立ち塞がる相手だったのだろうが、こうしてただ前足を手代わりに振っているだけなら、動物園の虎より可愛い。
みかん達も笑顔で虎に手を振って見せた。
悠然と広がる、パノラマの雪山が優しくみかん達を出迎えてくれた。
これが、街の中にある池からすぐにやってこれる場所だと言うのだから、本当に不思議な気持ちになってしまう。
しばらく雪山の旅を巨大ムカデの案内で進めて行くと、白熊っぽい二体の大熊が鎮座する洞穴にやって来る。
『おお、ムカデ爺さんじゃないか。今日は何かあったのかい?……って、カグちゃん? カグちゃんか!』
白熊の片方……なにやら、身体のアチコチに傷を持っている、いかにも歴戦の熊っぽい方が、カグを見て懐かしそうな声を出して見せる。
そして、当たり前の様に流暢な人間の言葉を発していた。
「熊太郎おじちゃんも元気そうだね~! 本当、久しぶり~!」
カグは嬉々とした顔で声高に言い放つと、そのままムカデ爺の背中から降りて、熊太郎さんの方にダイブして見せた。
そこから熊太郎さんの胸元に収まる。
ここから予測するに、カグにとってこのダンジョンのモンスターは、みんな仲の良い知人関係にある模様だ。
「およ~」
「う~」
みかんとシズはちょっとだけ困った顔になった。
実を言えばみかんとシズ。
五十年前はこのダンジョンを攻略していたわけなのだが、この熊太郎さんとは良くも悪くも何度か死闘を演じていた。
正確に言うのなら、シズが何回か戦っていたのだった。
『……お、お前は! 俺の永遠の好敵手のシズ!』
シズを見掛けた時、熊太郎は一気に表情を変えて身構えて見せる。
『やめなさい、熊太郎さん。今日は客人としてここに来ているんだ』
そこから、ムカデ爺は熊太郎を制止する感じの声音を吐き出した。
五十年前……一番目の迷宮でカグを仲間にし、その次の攻略先としてこの迷宮にやって来ていたみかんとシズの二人がいたのだが、その時はムカデ爺はいなかった。
なんで居なかったかは知らない。
しかし、その関係もあってか? 今の様な、戦闘を完全に回避する形での迷宮攻略ではなく、ちゃんと戦って先に進んでいたのだった。
そこらの関係もあり、この熊太郎とも戦っていたみかんとシズ。
当時はカグがいた関係もあって、今と同じ感じでカグにはフレンドリーな態度を取ってはいたのだが、迷宮攻略を目的だと分かった途端に態度が変貌。
みかんとシズの二人に戦いを挑んで行くのだった。
余談だが、二頭いるもう片方の白熊は奥さんだった。
熊子さんと言う。
とっても気の良い、優しい奥さまだった。
当時もカグから事情を聞いていたので、特に戦闘をする事なく、むしろ頑張ってねと励ましの言葉を投げ掛けていた。
『しかし! コイツらの狙いはカサブ様ですぜ? 迷宮攻略が狙いです! 通すわけには行きません!』
熊太郎さんはムカデ爺に食い下がる。
ムカデ爺は、みかんを軽く見据えた。
『ほぅ……流石の私もカサブに危害を加えると言うのなら、見捨ててはおけないな。みかんさんとやら? アンタらは、カサブを倒しにやって来たのかね?』
「いいえ~。カサブはむしろ生きててくれないと困るです。うちらはこのダンジョンの一番下の部屋に用事があるだけで、他に用事はないです~」
みかんはここまで言ってから、ハッとなった。
「ああ、後はカグがちょっとカサブと色々あったから、そこも何とかしたいトコです」
『なるほどなぁ………本当何があったんじゃろうなぁ……困ったものだ』
みかんの言葉にムカデ爺も少し困った声音を吐き出した。
そこから続けて、
『熊太郎さん……あんた、少し喧嘩っ早くていけないね。今回は私の顔に免じて通してやってくれないか』
ムカデ爺さんは穏和に熊太郎さんへと答えた。




