【7】
ナナ池のダンジョン攻略は、リダやユニクスの反則的な戦力によって、身も蓋もなく無双するだけで一層目を終わらせて行くのだった。
▲△▽△▲
その頃。
五大池の一つ、カサブ池の迷宮攻略にやって来ていたみかんチームは、極寒の雪山みたいな場所に到着していた。
「およ~」
「なんだ、ここは?」
「う~」
「まぁ、カサブの迷宮だから」
見事に吹き荒れる雪山地帯にやって来た四人は、各々の第一声をあげる。
ちなみに、声を上げていたのは、みかん・ういうい・シズ・カグの順番だ。
「う~。こう寒いと、ちゃんと身体が動かせない、う~」
シズは寒いのが苦手だった。
極寒と言う時点でダメだった。
だが、現況は更に厳しく、凄い猛吹雪だった。
せめて、これだけでも何とかしたい。
「取り合えず、そこらを吹雪にしている雪の精霊を説得して見ますかねぇ」
みかんは答えて、物凄い勢いで吹雪いている所に向かって精霊語を使って見せる。
『ごめん、寒いから吹雪を止めてくれませんか~?』
『すいません、これも私らの仕事なんで』
『ほら、ここって迷宮じゃないですか? 冒険者来たら妨害しろってボスに言われてるんですよ』
「ほむぅ~」
精霊の説得に失敗した。
みかんは一計を案じる。
『じゃ、どうすれば吹雪を止めてくれます?』
『そうですね。時給900マールの仕事なんで、それ以上くれるんなら』
「……およ~」
みかんは唸った。
なんて現金な精霊なんだろう。
……てか、時給900マールで雇われてるのかよと、少しツッコミも入れたくなった。
「なんて言ってるんだ?」
ういういは軽い口調でみかんに尋ねた。
精霊語を知らないういういからすると、みかんが唸っている所しか分からない。
「時給900マールで雇われてるから、それ以上の待遇をしてくれたら、吹雪をやめるそうです~」
「このまま行こう!」
ういういは即決だった。
精霊に払う金など一銭もないと言うのが、彼女なりの答えだ。
「う!」
直後、シズがお札を出した。
一万マール札だった。
寒いのが毛虫より嫌いなシズは、一万で解決してやろうと本気で思っていた。
その瞬間、吹雪が消えた。
「……お金で解決するダンジョン攻略って」
カグは少しだけ呆れた。
『まいどあり~♪』
雪の精霊は、シズから一万マール紙幣を貰って、ホクホク顔で立ち去った。
吹雪が去り、周囲が悠然と聳える豊かな雪山に変わった所で、一行は先に進んで行く。
しばらく進むと、
ゴゴゴゴッッ!
前触れなく地鳴りが。
何だ? 何だ!……と、四人が周囲を見回していた時、地面から十メートルはあるだろう巨大ムカデが雪の地面から現れた。
「えええぇぇ………」
てか、なんで雪山にムカデなんだよと、ういういは驚きながらも毒吐いた。
実際、火炎ムカデならまだ聞いた事もあったのだが、雪のムカデなんか初めて聞いた。
普通に考えると、生態系的に適応しない生物だからだ。
しかし、実際に眼前にいるのだから仕方がない。
有りもしない話をされるのではなく、実際に実物がいるのだから、これ以上の詮索は不毛だろう。
何より、ここはダンジョンだ。
白い空だってあるし、青い雲だってある。
そんな場所に常識を求める事の方がおかしな話なのだ。
「う!」
そこで、シズがキュピーン☆ と瞳を輝かせて、一万マール紙幣を出して見せた。
どうやら、またもお金で解決しようとしていた模様だ。
どんだけダンジョンをなめてるんだろうか?
「シズさん、多分このムカデにはお金作戦は通用しないと思いますよ……」
みかんは苦笑して言う。
この言葉にシズは少しだけガッカリした顔になっていた。
そんな時だった。
「あ、ムカデ爺。ムカデ爺じゃないか~! 久しぶり~」
穏和な顔で言うカグがいた。
ムカデはカグを見つけると、口を動かして見せる。
どうやら、ちゃんと会話する事が可能の模様だ。
『おお、誰かと思ったら、カグちゃんじゃないか。元気だったかい? カサブならさっき復活してるから、早速遊びに来たのかな?』
「あはは……そ、そんな所かな?」
中々に流暢な言葉を口にするムカデを前に、カグは少しだけ陰りのある顔になっていた。
『……? 何かあったのかい?』
「えぇ……と、大した事じゃないんだけどね」
どうも様子がおかしいと不思議がるムカデにカグは言いにくそうに返事をしてみせた。
『ふぅむ……喧嘩でもしたのか? だめだな、喧嘩は。よし、ここはムカデ爺に任せなさい』
ムカデはきっと柔和に笑ったんだろう雰囲気を醸し出していた。
実際はムカデに表情はないので、何となくそんな風に見えただけだったのだが。




