【4】
警戒を怠る事なく、三人は進んで行く。
途中で気付いた事は、このダンジョンで出現するモンスターが魔導人形しかいない事。
もしかしたら、この先に違うモンスターも存在しているのかも知れないが、現時点で遭遇するのは魔導人形の群れだけだった。
強いて言えば、先に進めば進んだだけ、その強さが少しづつ上がっていると言う事だろうか?
これはこれで、最終的にはどの程度の強さになるのか未知数であった為、不気味な所ではあったのだが、今の所は然したる脅威には至らない。
いや、脅威には至らないと言うレベルではない。
「……う~ん」
フラウは苦笑した。
ハッキリと物を言うと、だ?
「私、何しに来てるんだろう?」
素朴ながら、真面目に思えた。
一応、このダンジョンに入るに当たって、進む順番を決めていた。
先頭はリダ。
後方はユニクス。
そして、フラウはその真ん中の位置だ。
この立ち位置は一番安全とも言える。
何故なら、前方にやって来た敵はリダが一瞬で完膚無きまで叩きのめしてしまうし、後方からのバックアタックが来ても、ユニクスが以下同文の働きをしてしまう。
非常識なリダの反則的な強さは、リダVer本編でも語られているから分かるかも知れないが、ユニクスの戦闘レベルも人外級である。
特にリダの呪いによって黒髪・黒目になった辺りから勇者覚醒とか言う反則イベントが、フラウの知らない所でまことしやかに行われていたりもするのだから……なんと言うか、どう言葉にして良いのか分からない。
ただし、ユニクスの勇者覚醒は、本人にも自覚がないらしい。
また、現時点ではリダの予測でしかなく、本当に勇者として目覚めているのかは、まだまだ不透明なのだと言う。
しかしながら、剣聖杯の時点のユニクスを大幅に凌駕した戦闘力を、極々当然の様にフラウへと見せていた現在のユニクスは、リダの予測通り勇者覚醒に繋がる何かを本人も無意識の内に果たしているのだろう。
これでは、フラウが最弱のミソッかすになってしまうではないか。
このままではダメだ!
ダメダメだっ!
私だって二人と一緒にやれるんだと、意気込みを見せるフラウ。
そこにはちょっと背伸びしたい気持ちなどもあったのだが、仕方ない部分もある。
だが、実際は魔導人形がやって来てもユニクスやリダが五秒掛からずに粉砕するだけで終わっていた。
見事なワンサイド。
完全なワンパンゲー。
抽象的にRPG等に置き換えてみると、通常フィールドから敵と遭遇する事で戦闘画面に切り替わり、音楽も戦闘用に変更されるのだが、初ターンの一撃目でバトルが終了してしまうため、戦闘音楽が最初の1フレーズ目で終わってしまう。
もう、音楽を作った人が悲しくなる様な勢いだ。
もう少し私の作った音楽を聞いて下さいよ……とか、ぼやいてしまいたくなる様な勢いだ。
トラップの類いも色々あった模様だが、フラウの視点からするとトラップがあった事すら気づかなかったレベルだ。
先頭を行くリダが、全てのトラップを真っ先に発見し、発動するより先に完璧な無効状態にしていた。
ここまで来ると、天才と言うよりも変人だった。
なんでこんな事が出来るんだよと驚くと言うより……もはや呆れる。
結果、最初から比べると格段強くはなっているけど、結局は五秒で倒される魔導人形に、トラップはあるけど一切の発動はされない……もはや漬け物石より役に立たない罠があるだけと言う、おかしな状況がひたすら続いていた。
「本当、平凡なダンジョンだな」
「ちょっと、肩透かしを受けますね……」
この二人は本気でこんな事を言ってるのかと、フラウは衝撃を受ける。
フラウとしても、今回のダンジョンでまだ二回しか迷宮攻略を行った事はないのだが……それでも分かる。
この迷宮は決して二人が思っている程、普通ではない。
ただ、この迷宮に挑戦しているリダとユニクスの二人が普通ではないから、結果的に平凡で何もないダンジョンと錯覚してしまうのだ、と。
「そうか………これが『苦労しない事』なのか」
フラウは誰に言うわけでもなく独白して見せた。
前回のダンジョンはなんだかんだあったけど、驚きの連続だった。
それなりに苦労もしたけど、充実してた。
自分なりに成長したと言う自覚もあった。
今回はそれがない。
苦労は買ってでもしろ……そんな事を大昔の偉人が言っていたらしいが、その意味がなんとなく分かった様な気がしたフラウだった。




