【3】
「う~」
「そうだな。次はどんな金になるのが出るのか楽しみだ」
みかんの言葉に、シズとういういは相変わらずのテンションで返答してから、歩き始める。
「………」
そんな中、カグだけ少しポーッとしていた。
浮かない顔と言う訳ではないのだが、何処となく悩んでいる様にも見える。
「……? どうしたんだい、カグさん?」
ちょっと悩んだ顔になっていたカグを見て、ういういが軽く声を掛けてみた。
「あ、うぅん……なんでもない」
カグはちょっとだけ愛想良く笑ってみせる。
けど、やっぱり心配になってしまう様な表情だった。
「なんか、悩みがあるんなら言ってみなよ。私ら仲間じゃないか」
「うん……そうだね。ごめんね、心配させちゃって」
「心配って言うか、気になるじゃん? どうしたのかなってさ?」
やや謝る感じで言うカグに、ういういは穏和に笑ってから答えた。
「う~。安心して欲しいカグ。きっと大丈夫」
そこでシズがグッジョブしてた。
シズは何処でもグッジョブする変な癖があるのだが、このグッジョブは少し意味深だ。
……少なくとも、ういういにはそう見えた。
「何を安心しろって言うんだよ?」
何となく一人だけ事情が飲み込めていない……仲間外れ感が否めないういういは、渾身の疎外感を言霊に乗せて尋ねた。
「そうだな……う~。人にも複雑な人間関係がある様に、精霊や神様……ドラゴンにだって、複雑な関係と言う物があると言う事だ。う~」
「複雑な関係ねぇ……」
取り合えず、曖昧ながら悩みの種がどう行った方面の悩みなのかは理解した。
金の臭いはしなかった。
「……まぁ、その時になればわかるって事か」
だから、そっとして置く事にしたういうい。
中々の守銭奴っぷりである。
「何してるんですか、みんな~? 早く中に入りましょ~?」
程なくして、みかんの声が三人に転がって来た。
見れば、もう入り口の真ん前で三人を待っている。
「お~。わかった、今行くよ~」
ういういは小走りにみかんの元に向かった。
「う! うちらも行こう」
シズは柔和な笑みでカグを促す。
カグも微笑みながらシズにコクリと頷いた。
なんだかんだで、頼もしく……そして優しい。
暖かな気持ちが心の中にゆっくりと浸透して行くのが、カグにもわかる。
柔らかい綿毛に身体を預ける様な感覚だ。
妙に落ち着けて、無条件に安心出来る。
故に、思う。
大丈夫だ、と。
「うん、行こう」
カグはシズと一緒に歩き始め、入り口の二人に追い付き、四人で迷宮の中へと入って行った。
●○◎○●
同時刻。
「ここがナナ池か」
リダとフラウにユニクスの三人組は、みかん達と別れた後、目的地のナナ池にやって来ていた。
五大池の中では一番規模の小さい池だったりもするのだが、当然の様に大きい。
東京ドーム2~3個分はありそうな、大きな溜め池だ。
周囲は比較的大きな雑木林等もあり、ここが街の真ん中である事を時折り忘れてしまう様な風景が存在していた。
ザザァ………
ザッパァンッ!
十二時を回り、ご多分に漏れる事なく迷宮が復活して入り口が池から浮き上がって来る。
迷宮の入り口を確認した三人はそのままダンジョン攻略を開始する為に中へ歩を進ませた。
いざ、ナナ池の迷宮へ。
中は少し肌寒い物の、取り立て特筆する程の物が何もない普通の通路だった。
土壁の通路で、人が数人程度並んであるけるスペースがある。
暗いので、フラウが照明代わりの魔法を発動させる。
途中、宝箱があったので、トラップに注意しながらも開けたりした。
中身は良く見掛ける鉱物だったり凡庸アイテムだったりと……言う程、貴重な物ではないが、一応は持って行くかと言う様な代物。
みかんと同様にリダも異空間のアイテムボックスを所持していたので、その中に入れて置く。
数分程度進んで行くと、魔導人形と数体ばかり遭遇する。
決して弱い相手ではなかったが、それと同じ位、決してバカ強いと言うわけでもない。
今回はちゃんと戦闘に参加したリダのフォローもあり、特に苦もなく討伐して行く。
「……平凡だな」
「そうですね」
リダの言葉にユニクスは短く頷きだけを返した。
正直、それしか言えないだ。
別に特別な何かを期待していた訳ではないのだが、ここまで変哲知らずだと、どこか妙に物足りない。
いや、違う。
どこかで、アッと叫んでしまう様なサプライズが、突拍子もなくやって来そうで怖い。
ダンジョンでは結構良くある事だ。
これまで平坦な道をゆるゆると進んで来た所で、いきなりアップダウンの激しい環境に突然変わってしまう事が。
その余りのギャップの激しさに、ついて行けなくて全滅してしまう事が……だ。
簡素に言うのなら、こんなダンジョンだからこそ、油断が出来ないのである。




