【21】
最終的には封印する事になってしまうカオス・ドラゴンではあるのだが、このドラゴンの性質は慈愛に満ちた優しいドラゴンであったそうだ。
少なくとも、カグの視点からするとそうなる。
話によると、コーリヤマの街にやって来た謎の魔法使いにおかしな魔法を掛けられてから以降、カオス・ドラゴンの様子がおかしくなってしまったらしい。
恐らく、この魔法使いになんらかの強烈な催眠術でも掛けられてしまったのだろうカオス・ドラゴンは、街を襲う凶悪なモンスターに変貌してしまうのだった。
みかんとシズが知っているのは、この獰猛なモンスターとなってしまったカオス・ドラゴンからだ。
当時のみかんとシズの二人は流れの冒険者。
まだ剣聖に成り立てのシズは、みかんと一緒に武者修行の旅を続けていた。
その旅先でフラッと立ち寄ったコーリヤマの街で、突然やって来た謎のカオス・ドラゴンの襲来!
街のみんなを守る為に、二人はカオス・ドラゴンを討伐しようとするのだが……。
何故か、街の連中はあまり良い顔をしない。
むしろ、カオス・ドラゴンを庇う者まで現れる始末。
そうこうしている内に、カオス・ドラゴンは街から外に出て行ってしまう。
その後、討伐しようと考える二人に、せめて封印する方向でお願いしたいと懇願する者が多数現れ、五大池のダンジョン攻略をする方向へと話しが進んで行くのだった。
そしてカグと出会い、事情を聞いて行くのだ。
実はとても優しいドラゴンである事を。
カグの話しを聞けば聞く程、カオス・ドラゴンは穏やかで優しい、淑やかな女性である事が分かる。
普段は人間の街で暮らしている為、敢えて自ら人間の姿となり、その力も人並み程度に抑えていた。
他方、なんらかの天変地異等で街が災害に見回れたり、事件や事故が発生した時は、ドラゴンの力を解放して全力で街に尽力を注いだりもした。
故に、当時のコーリヤマ人は、カオス・ドラゴンだからと言って彼女を淘汰しようと考える者など、ほとんどいなかった。
そう……ほんとんど。
全くの皆無ではないのが、今回の悲劇にも繋がって行くのだった。
混沌の龍は混沌の龍らしく、人間から忌み嫌われる存在でないといけない……そんな、固定観念にも似たへそ曲がりがいたと言う事だ。
この魔法使いは……後に、泣く泣くカオス・ドラゴンを封印した直後、みかんとシズによって取り押さえられ、衛兵に捕まえられて行くのだが、元に戻す手段を知らないまま術だけを施していたらしく、そのまま処刑されるだけに終わった。
結局……悲劇だけが後味悪く残る戦いになって行くのだ。
いきなり極論になってしまったが、五十年前に起きたカオス・ドラゴンの封印は、みんなにとっての悲劇であった。
もう二度と起きては行けない悲劇だ。
この悲劇の内容については、もう少しお話が進んだ時にでも述べる事にしよう。
なにはともあれ。
カグは五十年前にカオス・ドラゴンを元の優しいお姉さんに戻す為に、みかん達と一緒に行動した仲間でもあった。
短い間ではあったが、苦楽を共にした親しい仲間だった。
後で話す悲劇の中にあるのだが、様々な不運が悲しい位に重なってしまい、カグは命を落としてしまうのだ。
しかし、あれから五十年の時が過ぎ、ダンジョンが復活したと同時に、その守護者でもあるカグも復活を遂げたのである。
こうして、さっきの二人が言った『おかえりなさい!』に繋がって行くのであった。
はてさて。
「……と、言う訳で、カグとみかん、シズさんの三人はとっても仲良しさんなのですよ~」
「う~っ!」
昔話しも終わり、封印の魔法陣を敷く、ただただ広い場所に場面は戻る。
「なるほどなぁ」
みかんの話しにリダは軽く腕組みしながら頷いていた。
「コーリヤマに、そんな話しがあったんですね……」
「私も少しびっくりした」
フラウとユニクスの二人も意外そうな顔になっていた。
一応、カオス・ドラゴンが封じられている話しは、お爺さんお婆さん等から聞かされてはいたが……お話に出て来るカオス・ドラゴンは決まって悪者であり、凶悪なモンスターとして出て来た。
最終的には、この池のダンジョンにある魔法陣によって封印され、街の平和は守られたのだった。
めでたしめでたし。
……と、まぁ。
こんな感じだった。
所が、事実は大きく異なった。
地元に住んでいたのに、全然分からない事実だ。
「もし、それが本当なら……封印するのは可哀想な気もしますね」
ユニクスは悲しそうな顔で言う。
「本当なら、みかんも封印はしたくないのです……けど」
みかんは目線を下に落とした。
カオス・ドラゴンをおかしくした魔法使いはもういない。
よしんばいたとしても、それを治す方法を魔法使いは知らない。
つまり、治す手立てがない以上、街を襲うだろうカオス・ドラゴンを方っては置けないのだ。




