【20】
「そうですねぇ~。ここは少し説明する必要があるかもです~」
全くもって謎でしかないだろう四人に対して、みかんはポンと軽く手を打ってから答えた。
シズもすぐに頷く。
「う~。そうだね。そうしよう」
こうして、みかんとシズの昔話が始まって行くのだった。
みかんとシズの二人が、近くで親しそうに抱き合っているカグと出会ったのは、今から五十年前の話。
つまり、前回のカオス・ドラゴンを封印しようとしていた時の話だ。
当時のみかんとシズの二人は、カオス・ドラゴンを封印する為に五大池の迷宮を攻略して封印の魔方陣を作ると言う作業をしていた。
その五大池で、まず真っ先に向かったのが、このカグ池の迷宮であったのだ。
そして、このダンジョンの守護者でもあったカグと出会うのである。
当初……この時点では、カオス・ドラゴンを封印するのではなく、討伐する考えもあった。
封印すると言う事は、遅かれ早かれカオス・ドラゴンが復活し、今の様に再び街の住人達の脅威になる可能性が極めて濃厚であったからだ。
ならば、いっそ……多少の無理を覚悟で討伐してしまおうと言う案が浮上していたのである。
だが、最初の迷宮に入ったカグとの出会いによって、討伐の選択肢が除外された。
どうしてカオス・ドラゴンを討伐する選択肢が除外されてしまったのかは、後で順を追って説明して行くので、ここでは一旦おいて置こう。
そこはさておき。
カグ池の守護神でもあったカグは、土着信仰から生まれた土地の守り神。
簡素に言うのなら、地域に昔から住んでいる地元住民の信仰から生まれた神様だった。
故に地名でもあるカグ池の名前がそのまま彼女の名前にも付いているのだ。
土着の神でもあるカグは、二百五十年前に伝承の道化師を封印する事が目的で作られた現在のダンジョンを守護する神にもなり、これによって近所の人間だけでなく、街のあらゆる人間から崇められる事となって行く。
土着の神にとって人間の信仰心はそのまま自身のエネルギーになる。
カグの力は大きく高まり、そしてダンジョンの守護者としての力を高めて行くのだった。
そんな時、みかんとシズの二人がカオス・ドラゴンを封印する目的でこのカグ池のダンジョンにやって来る。
最初は軽くあしらうつもりでいたのだが、みかんとシズの二人はカグ池の迷宮をドンドン突破して行き、とうとう彼女がいる最芯部にまで到達してしまうのだ。
こうして、みかんとシズの二人はカグと出会う。
最初のカグは、このダンジョンの守護神……つまり、ボスとしてみかんとシズの二人に立ち塞がる。
カグにとって、この広間を守る目的が二つあったからだ。
一つは守護者としての義務。
伝承の道化師が倒されてしまっていた為、当時としては元来の目的を失ってはいたのだが、それでも一応はこのダンジョンを守る役割だけは全うしていたのだ。
次に、二つ目。
カオス・ドラゴン封印を阻止する為。
ここがポイントだ。
当時、カオス・ドラゴンの討伐も視野にいれてたみかんやシズの選択肢に『討伐』の二文字が消えた決定打でもある。
激戦の末、カグを打ち破った二人ではあったが、カグにトドメを差す事はなかった。
瀕死となり、四肢を動かす事さえ困難な状態になっても尚、必死でカオス・ドラゴンの為に戦おうとしていたカグ。
その姿に、二人は思った。
これはおかしいと。
見方を変えると、みかんやシズの方が悪役になりそうな?……その位、様子がおかしいのだ。
そこで、みかんとシズの二人はカグと話し合う選択を取った。
最初は話し合いに応じてはくれないカグではあったが、それでも必死で話し合いにこぎ着けようと考えるみかんとシズの姿に、カグも心が打たれた。
そして、彼女は思ったのだ。
もしかしたら、この二人なら……カオス姉さんを助けてくれるかも知れない。
………と。
……そう。
カグにとって、カオス・ドラゴンは特別な存在だったのだ。
そして『カオス姉さん』と呼んでいる所から察して貰えるかも知れないが、カオス・ドラゴンは女性でもあった。
カオス・ドラゴン……等と言うと、どうしても混沌の龍と言う先入観が強く、嫌でも狂暴なモンスターないし邪龍と言うイメージが沸いて来るかも知れない。
実際問題、カオス・ドラゴンのほぼ大多数はそうであるし、人間なんてゴミ屑程度の考えしかないカオス・ドラゴンの方が圧倒的だ。
しかし、人間の性格も十人十色である様に、ドラゴンの性質も千差万別に存在しているのである。
ホーリードラゴンだって、邪龍張りの悪どい性質を持ってるかも知れないし、カオス・ドラゴンだって優しい心を持ってるかも知れない。
つまり、何が言いたいのかと言えば、それは飽くまでも見た目から来る固定観念でしかないのだ。




