【4】
これらを換金した場合、現状の相場に値崩れがないとするのならこうなる。
雷オークの骨=二万マール。
雷オークの肉=キロ単価一万マール。
見る限り五キロ位なので五万マール。
稀少金属グラム単価千マール。
見る限り重すぎて持ち運べず、仲間の魔法使いによって異空間のアイテムボックスに入れてたのを仮定すると、最低でも二十キロ以上。
つまり、最低でも二千万マール。
「うぉ~いっ!」
その瞬間、まるで守銭奴の様に一瞬でお金の勘定が出来てしまったういういは、思いきり涙目になって喚き声を上げる。
「みかんが、無駄に治療魔法なんかしてるから、遅れちゃったじゃないか!」
そしたら、ここのボスだって倒せたのに!
てか、ここのラスボスの秘宝が時価五千万なのに、一階のボスで二千万とかなんなの? とかって、もう喚きたい放題だった。
「まぁまぁ~。まだまだ先は長いんですし~。良いじゃないですか。少しくらい~」
「少しじゃね~だろっ! 二千万だぞ二千万! ああもう! 次、行くぞ次!」
ういういは、少し小走りになって二階へと向かって行く。
みかんも苦笑混じりになってういういの後を追いかけて行った。
二階に入ると、いきなり熱気の様な蒸し暑い空気に肌を焼かれる。
「およ~」
先程の通路とは違い、今度は一気に周囲が開けて見張らしがよくなる。
見れば、ボスを倒した冒険者一向が、早くもその先をズンズンと進むのが見て取れた。
「ぼやぼやするなよ! みかん! 今度はゆっくりなんかしていられないからな!」
次こそは自分達の番だと言うばかりに意気込むういういは、周囲にある熱気など、最初からないかの様な勢いで前を歩いた。
「やれやれ……若いねぇ」
そう言うあんたも十分若いと思うんだがと、思わず言ってやりたい事を嘆息混じりに言うみかんの姿があった。
二階のダンジョンは、一階と比べるとかなり単純だ。
中央にマグマの様な物があり、その周囲に比較的大きな通路がある。
そこを進んだ先に階段があるのだが、階段は螺旋状になっており、恐らく三階まで伸びている物だと思われる。
思われる……等と曖昧な表現をしたのは他でもない。
とにかく、縦に長いのだ。
下から見る螺旋階段は、軽くビル数階分に相当する。
軽く二百メートルはあるオナハの塔だけに、スゴく高い二階があってもなんらおかしくはないのだが、それだけに、この螺旋階段を登り切った先が、必ずしも三階であるとは限らなかった。
例えば中二階の様な、二階と三階の間の様なフロアになっている可能性もある。
酷いと、この階段自体がトラップで、登り切ると階段が壊れて戻れない上に、次のフロアに進めると思ったドアが実は偽のドアで、ドアですらない可能性すらあった。
「う~ん……」
みかんは少し考える。
曲がりなりにも、ここは難易度Sのダンジョン。
一階が余りにも可愛いので忘れガチだが、決して簡単に踏破出来る場所などではないのだ。
そこで、軽く辺りを見る。
取り合えず、何か特別な物はないかと調べて見た。
「おぉ~いっ! 何やってんだみかん! マジでおいてくぞ!」
他方のういういは、イライラしながら、みかんに向かって怒鳴り声をあげる。
その瞬間だった。
ドォォォンッ!
中央のマグマがいきなり爆発した。
それはあたかも、火山が噴火したかの様に。
「うぉわっ!」
ういういは思わず身をすくめる。
噴火した瞬間、その周囲にマグマの雨が降り注いだからだ。
刹那、近くにいたみかんが溶岩を食い止める為の防御魔法を展開した。
「やっぱり、罠か~」
「……その様だな」
おおよその見当が付いてただけに、そこまで驚いていなかったみかんと、完全に虚を突かれた事で動揺を隠せないういういがいた。
見れば、先程のパーティは、噴火したマグマに飲み込まれたのか、既にいなくなっていた。
「さっきの人、死んでないといいんですがねぇ~」
「そ、そうだな」
でも、多分……無理だろ。
などと、ういういは胸中でのみぼやく。
「命あっての物だねです~」
「ごもっとも」
ういういは、冷や水を浴びせられた気持ちで一杯になる。
さっきのパーティを羨ましく感じていた気持ちなど、もう吹き飛んでしまった。
例え、どんなに価値がある物を入手していても、大金持ちになれるだけの宝物を手に入れても。
「くたばっちゃ……何もならないな」
「つまるに、そう~」
みかんはにっこりと笑顔で答えた。
「とりま、ねぇ~? あの階段はどう見ても露骨だよねぇ」
「まぁ、進んで下さいって感じだよな」
しかし、進むとマグマに喰われる。
当然、この道は不正解となる。