【18】
「凄いよ、ういういさん!」
床に腰をつけていたういういに、間もなくフラウが駆け寄って来て、嬉々とした声音で叫んで見せる。
「お~? なんだ、遅かったな~。下の方で結構面倒なモンスターとか出てたのか?」
「ううん! 実はちょっと前に来てたんだけど、リダに止められてたの」
「ああ、そう言う事か」
フラウの言葉を耳にして、ういういはにっこりと穏やかに笑った。
「流石、会長。わかってるじゃん」
「……ういういさんも、やっぱり一人で戦いたかったの?」
「違うけど……そうなるのかな? ほらさ? 途中、死闘になってさ? 勝つか負けるかわかんないトコだったとするだろ? そこでさ? いきなり横からしゃしゃり出てさ……倒されたり何かしたら、気分悪いだろ? つまり、そう言う事」
ういういは答えてからニッ! と快活な笑顔を作った。
「なるほど……」
フラウは、分かった様な分からない様な……でも、なんとなく納得出来た様な頷きをして見せる。
ういういの言い分は分かった。
きっと、自分も同じ気持ちになるかも知れない。
どんな形であれ、互いに本気でぶつかり合っている最中に横やりを入れられては敵わない。
たとえ助太刀が目的で、善意から来る物であったとしてもだ。
そこから直ぐに、宝箱が出現する。
「……う~ん」
ついさっき、宝箱の中に合成獣が入っていたからか? 少しだけ慎重になるういういだが、やっぱり宝箱は開けていた。
開けた宝箱の中に入っていたのは……。
「杖かな?」
取り合えず、手に取ってみる。
なにやら魔力っぽいのは感じるのだが、根っからの剣士だったういういには良く分からない。
「世界樹の杖かな~? これは」
そこで、いつもの様にひょっこりと顔をのぞかせてから説明して行くみかんがいた。
「世界樹?」
ういういは少しだけ意外そうな顔になる。
確かに巨大な樹木があったし、現に今も巨大樹らしき物の上にいたりもするのだが、
「世界樹ってあれだろ? 世界に生きてる命の源みたいな樹」
「そうそう、それ。多分このダンジョンの今立ってるのは、その世界樹をモチーフにしてるのかもです。まぁスロープとかは違うでしょうが、全体像とか、そう言うのは同じなのかもです」
「ほ~」
それに関連したアイテムが、今の世界樹の杖となる。
「変なトコで結びつけるな」
ういういは素朴な事を口にした。
「そこは知らないですよ~。作った人にでも聞いて下さい。それより、です? この杖は便利ですよ~? 元来、補助魔法や攻撃魔法しか使う事が出来ない魔導師でも、回復魔法が使える様になります。努力次第では復活魔法だって使える様になる優れものです~」
「なるほど」
「しかし、これ……魔法力がないと使えないです」
簡素に言えば、ういういには全く無用の長物と言う事になる。
選択肢なんか換金か換金だ。
そうと、ういういの胸中で燃えたぎる守銭奴魂が熱く語っていた。
しかしながら、ういういは守銭奴の心を強引に深層心理の奥底に閉じ込めてから、その杖をフラウに渡して見せる。
「やるよ。私が持ってても仕方ないからな」
「……い、いいの?」
フラウは無意識に後ずさりしてしまった。
どう考えても伝説級の杖である。
そんな物をおいそれと貰うのは気が引ける。
「もらっとけ。後で何か返せば良いだろ」
ワンテンポ置いて、リダの声がフラウの耳に転がって来た。
「……そ、そうする」
フラウはういういから世界樹の杖を受け取った。
驚く程に軽かった。
そして、何より………。
「木の精霊が……溢れてる?」
正確には良く分からない……だが、強烈な程に濃縮された魔力に繋がるエネルギーを、触った瞬間に感じた。
これが、世界樹の……力?
思わぬ所で予想だにしない新しい力を手にしてしまったフラウは、思わず頭が混乱してしまうも、なんとか冷静になって杖を見据えた。
世界樹の力を持つ神聖な杖は、何も言う事なく自分の手に収まりつつ……しかし、膨大なエネルギーを無言のまま醸し出しては、フラウの体に少しづつ流れて行った。
「持ってるだけで、エネルギーを貰える杖なんてあるんだね……」
フラウは独りごちた。
もう、今日だけで一生分の驚きを感じていたと思っていたのに、まだ驚きが待っていた。
本当に本当に……世界は広かった。
「ありがとう、大事にするね!」
杖を両手に持って、フラウは本日一番の笑顔をういういに向けた。
◎△▼△◎
数分後、門が降って来た。
……それは、降って来たとしか、他に形容出来なかった。




