【17】
「すぐに助けないと!」
叫んでフラウが走り出そうとする。
同時に隣にいたユニクスも走り出そうとした。
「……やめとけ」
直後、リダが二人を制止する。
「何でです? 今のういういさんは明らかに苦戦してますし……場合によっては命の危険性も」
「もし、そうなる様なら私らより先に、みかんやシズの二人が動いてるさ。それをしないって事は、まだやれるって意味になる」
「し、しかし!」
「まぁ、まて。何回も言ってるかも知れないが……強い相手と戦うって事は貴重な経験なんだ。人間はな? 考える葦だ。色々と経験して苦労して……時に苦しだり悩んだりもする……その苦悩を経て、色々と自分なりにベストな工夫を構築して、そして成長して行く生き物なんだ」
リダは穏和に微笑みながら言う。
今は大変かも知れない。
苦痛かも知れない。
だが、しかし。
その苦痛を乗り越えた先に待っているのは、一つ成長して強くなった自分がいるのだ。
「ま、取り合えずは見てようぜ? 次世代の剣聖が、本当に剣聖としてやって行けるか? その生き様を、な?」
「……わかりました」
リダの言葉にユニクスは頷きを返した。
そして、思った。
やはり、リダ様は人間として尊敬に値する人だと。
リダ教信者だったユニクスだけに、少し贔屓目な感想かも知れないが、言ってる事は決して間違いではないと納得もしていた。
他方のフラウも渋々ながら肯定してみせる。
「リダがそこまで言うのなら、一応は見てるけど……本当に危ないと思ったら、私は行くからね」
「ま、その時は私も行くさ」
もっとも、そうなったらシズやみかんが動く方が早いと思うがな?
……と、胸中で付け足して。
果たして。
決着はついた。
カラン………
乾いた音がする。
みかんの異空間アイテムボックスを召喚させ、ういういの手元に持って来た空のSPポーションが葉っぱの床に落ちた時の音だった。
そんなういういは白目になっていた。
なんとなく精神が崩壊した顔になっていた。
「……結局、飲んじまった……」
お値段一万マールのポーションを。
とってもお高いポーションを。
しかし、もうSPは限界だった。
故に、飲まないと使う事が出来なかった。
わかっている……死ぬよりはましと。
そう、頭ではわかっているのだが、心の中に存在する守銭奴の熱き魂が叫んでしまう。
本日の損失、一万也!
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
ういういの中で何かが弾けた。
『……な、なに?』
合成獣は思わずたじろいだ。
今までのういういとは明らかに違う闘争心が、露骨にビリビリと伝わって来た!
『こ……こんな事が………』
圧倒的な威圧感に、合成獣は思わず後ずさる。
それは……本能から来る恐怖。
合成獣と言えど、生き物であるに違いない。
故に、抗えない物が存在する。
本能から来る、圧倒的な恐怖に。
「くたばれぇぇぇぇっ!」
海龍王・風神剣! 剣の舞!
瞬間、ういういの半片手剣に海龍の渦潮が付属される。
同時に、風神の剣圧が無数に生まれる。
『ゴガァァッ!』
合成獣はそれを寸前の所で避けようとして見せたが……その瞬間、剣圧の起動が変わった。
まるで誘導弾の様に軌道修正して見せた剣圧は、合成獣をえぐる様に斬り刻んで行く。
その一瞬後、ういうい自身が踊る様に合成獣を何回も斬り込んで行く。
その姿は、まるで舞う踊り子。
凄惨さの中に存在する美しい斬撃。
「これで終わりだぁっ!」
ザンッ!
最後に大きく剣を振りかぶり、豪快に縦一文字に一刀両断して見せた。
瞬間、合成獣は完全に真っ二つとなり、絶命して見せる。
「お~」
「う~!」
みかんとシズの二人から歓声が上がる。
シズは少し涙ぐんでいた。
なんだかんだで嬉しかったのだろう。
娘の成長を間近に見れた。
次世代の剣聖としてちゃんとやれる事の証明を、無言で見せてくれた。
よって……瞳から涙が出た。
「う?」
その涙に気づいたシズは即座に焦って、直ぐにゴシゴシと目をこすった。
なんだかんだで、自分の子供には見せたくないのかも知れない。
……恥ずかしいから。
「……へ、やってやったぜ」
合成獣の絶命を確認したういういは、勝利を確信した所でペタンと床に腰をつけてしまう。
SPポーションでSPは回復したが、根本的な体力が回復していたわけではない。
思えば、途中でみかんの治療を貰ってもよかったかな、とも考える。
しかし、それは考えない事にした。
最後はもう、勝つ事だけを考えてた。
そして、勝った。
実にシンプルだが、それならそれで良いのかなと思ったのだ。




