【16】
ういういの首飾りから、小さな海龍が出て来たのは、そこから間もなくの事だった。
「……え?」
ういういは面食らう。
唐突に、なんの前触れもなく出現した小さい海龍に唖然となる事しか出来なかった。
反面、首飾りからやって来た事で、ある程度の見当を付ける事が出来た。
ああ、これが海龍の首飾りの効果なのか。
ういういは胸中でのみ答え、そして笑みを作って見せる。
「海龍! ごめん、助けて」
ういういは『てへっ☆』と可愛く笑って海龍にお願いして見せた。
すると、海龍は言った。
どうやら、ちゃんと自分の意思を持っている模様である。
『……安心しろ。ちゃんと護ってやる。やるのだが、その気持ち悪いブリッ子笑顔はやめてくれ』
「なんだよ! 凄く可愛かったじゃないかっ!」
ういういは本気で怒って反論する。
どうやら、自分の中では会心の笑顔だったらしい。
他人から見れば、単なるあざとい笑顔にしか見えなかったのだが。
それはさておき。
召喚された陽炎は捻りに捻られ、高次元のエネルギーを放出する寸前になっていた。
同時に、海龍がういういの周囲を飛び回ると、激しい水の渦が彼女の周囲に出現した。
ほぼ同時に捻れた陽炎が完全に捻り切り、瞬時にドリルの様に高速回転を始めた炎がういういを襲う。
最終的に大爆発する上位陽炎魔法の強烈な一撃により、周囲は尋常ではない光が辺り一面に広がった。
他方、その頃。
「……これは、上位陽炎魔法?」
唖然としたフラウが、ポカンと口を開けたまま、スロープの頂上を見ていた。
ガーゴイルとの戦闘が終わり、先に進もうとしていたフラウ・ユニクス・リダの三人は、そのままスロープを登り始めていたのだが、
「多分、上で誰かが使ってるんだろ?」
とんでもない魔法が発動していたのをスロープの下で見掛け、思わずポカンとなっていたフラウに、リダが普通の顔して言っていた。
まるで日常のヒトコマを口にするかの様な喋り方だった。
「いやいやいや、リダ! 上位陽炎魔法だよ? メチャクチャでしょうよ!」
「……おいおい、フラウ。ここはダンジョンだぞ? さっきから何回も言ってるが、外の世界とは根本的な概念が違う。ましてここの難易度は高いし、挑戦してる冒険者……つまり、私達パーティのレベルもかなり高い。そのレベルで考えるなら、この程度の魔法が発動されても、なんらおかしくはない」
しれっと言う。
「………」
フラウはポカンとした顔を更に強めて絶句した。
内心では思った。
もう、ここまで来ると迷宮と言うより魔境なんじゃないのだろうか?
このダンジョンに入ってから、ずっと驚きの連続である。
自分の常識と言うのが、如何に狭い見解を意味していたのかと、痛感させられた。
「ま、使っているのが敵であれ味方であれ、ここからじゃ良く分からないけど、なんとかなるんじゃないか?」
リダは気楽な口調でフラウに言っていた。
仮に敵が上位陽炎魔法であるのなら、全然穏やかな話ではないのだが、それであっても問題ないと思ってるいる辺り、やっぱりリダと自分のレベル差を思い知らされた。
しかも、本当にどうにかなってしまうのだから……ここまで来ると笑えない。
「上で戦ってるって事は、ここらにいたモンスターは全部倒されてるだろうし、逆に安心だな」
そうと答えたリダは、顔でこうと言っている。
手間が省けて結構。
見れば、上がって行く途中で数匹のガルーダがこんがり焼けていた。
上手にやけました状態で倒され、爪とか羽とかをもぎ取られていた。
中々、エグい残骸になっていた。
きっと、ういういに剥ぎ取られたに違いない。
「………」
フラウはまたもや無言になった。
もう、ここにいると何が常識なのか分かった物ではない。
結局戦闘はなく、あったのはモンスターの残骸のみ。
そのままスロープを真っ直ぐ進んで行き、天辺に当たるのだろう広い葉っぱが敷き詰められた場所に出た。
その先には、
「はぁはぁ………ちっ! お前のせいで、もしかしたらSPポーション使うかも知れなくなって来たぞ……」
肩で息をしつつも、半片手剣を握ったういういが、ボロボロになっている合成獣と戦っていた。
他方、そこから少し離れた所では、みかんとシズの二人が能天気にお茶を飲みながらういういの戦っている所を軽く見ていた。
良く見るとブルーシートの様な物がここでも敷かれており、何やら立て札の様な物まで置かれている。
その立て札には、こう書かれてあった。
『観戦席』
「バカなの? あの人達!」
フラウは唖然としていた。
「否定はしない」
リダは苦笑した。




