【11】
しかし、その結果は超巨大な剣圧で大樹を一刀両断してしまうとか言う、もはや漫画みたいな展開が待っていた。
「……世の中って広いなぁ……」
リダが以前にフラウへと言っていた井の中の蛙と言う台詞が頭の中でリフレインした様な気がした。
その時だった。
ゴゴゴゴッ!
周囲が震えた。
最初は地面が地鳴りを起こしたのかと思ったが、どうもおかしい。
少し後になって三人は気づいた。
地面が揺れていたのではなく……真っ二つになった巨大樹が震えていたと言う事に。
その瞬間。
『ゴガァァァァァッ!』
真っ二つになっていた巨大樹が物凄い勢いでピタッとくっついて一つの大樹に戻ると、怒りの声が周囲に轟いた。
見れば、巨大樹の中央に如何にも邪悪そうな顔が現れる。
まるで、巨大な人面樹だ。
顔を樹木の胴体に浮き上がらせた巨大樹は、ギロッ! とういういやフラウ、ユニクス達を見据えた。
他方、その頃。
「いや~。たまにはこう言うのも良いですねぇ」
「う~」
「お~、蝶々なんか飛んでるんだな~」
後方にいた三人は悠長に、のんびりしながらブルーシートの様なものを敷いて、シズが用意していたお茶を飲んでいた。
……なにしてるんだろうね。
閑話休題。
遂に本性を現した巨大な樹の化物……カイザートレントが、ういうい、フラウ、ユニクスへと敵意を露骨に見せて行く。
これにフラウとユニクスの二人は表情を引き締めて、戦闘態勢に入って行く。
一方、ういういだけ逆の態度をみせた。
なんと、当然の顔をして武器をしまったのだ。
「……?」
フラウはキョトンとなる。
「ういういさんは戦わないのですか?」
いきなりの敵前逃亡にさえ見えたういういに、ユニクスも腑に落ちない顔になっていた。
すると、ういういは言った。
「風神剣の真髄は、次にあるんだ。そうだな……簡単に言えば、もうあいつは死んでいる」
「……は?」
フラウはポカンとなった。
貴女は何処の北斗なお方ですか? とかって思わず言いたくなった。
その数秒後。
ういういの言っていた意味が明らかになる。
「風神剣と雷神剣はただの物理攻撃……と言うか、見たままの攻撃だけじゃない」
ういういが二人に軽く説明する形で答えていた時、巨大樹の胴体がいきなり膨れ上がった。
まるで風船の様に膨張して行く大樹は、やがて限界まで膨れに膨れて行き、
パァァァァァァンッッッ!
破裂した。
余りに強大な破裂だった為、周囲に激しい突風が舞った。
「くぅ………」
「うわきゃっ!」
根本的に体重が軽い上に腕力も低かったフラウが、風圧に負け吹き飛ばされそうになっていた所を、
ガシッ!
「……大丈夫?」
直前の所でユニクスが両手でフラウを抱き締めて止めた。
「ありがとう、ユニクスお姉」
素直にフラウは言う。
色々あって、ユニクスとは大の仲良しになったフラウ。
可能なら、ずっと今の関係でありたいな……と、姉の優しさと心強さに感謝した。
強烈な破裂によって、文字通り木っ端微塵になった巨大樹は、粉々となって完全に姿を消し去る。
同時に、
スゥ………
これまであった森が姿を消した。
後に残ったのは、同じ広さのある洞穴だった。
どうやらここは、元々は巨大な鍾乳洞か何かだった模様だ。
「あの巨大樹が作り出してたのか」
フラウは軽く呟いた。
「きっとそうね」
フラウの言葉に、ユニクスも穏やかな口調を変える事なく頷いて見せた。
そこから、近くにいたういういが強かに笑って言う。
「これぞ、風神剣なのさ」
風神剣と雷神剣は元来、剣聖の称号を得た者が使う必殺技。
一子相伝の剣技でもあり、親から子へ受け継がれ、その子もまた次の世代へと技を引き継がせて行く。
こうして受け継いだ技を守って来た伝統の剣技は、順当に行くと密かに次女であるういういがシズから受け継ぐ事になるのだ。
本当であるのなら、長女のアユが受け継ぐ筈だったが……悲しいかな、彼女は魔導師としての能力が伝説級に高く、剣士としての道を途中で閉ざしてしまう。
他方のういういは、もう根っからの剣士タイプだった。
生まれながらの剣士タイプと言っても過言ではない。
伝説級に強い剣士になる成長の延代まであった。
結果、次世代の剣聖を担うのは、ういういになったのだ。
剣聖見習いとなったういういは、風神剣と雷神剣をシズから学び、ある程度までなら使いこなせるまでに成長した。
そして、風神剣と雷神剣の真髄……風神と雷神の力を操る能力も得たのであった。
一見すると、風神の力を使って剣圧を出している様に見える。
実際、確かにそうなのだが、本当の力はここではない。
三頭竜当たりで話したかも知れないが、風神剣の真骨頂はこの次なのである。
当たった傷に風神または雷神の力が加わり、超絶ダメージが上乗せでやって来る。
これぞ、風神剣・雷神剣の持つ本当の強さなのである。




