【10】
六人はそのまま進んで行くと、ユニクスの宣言した通りに大きな大きな大樹が見える場所に到達する。
「……あれだな」
「そうですね」
ういういとユニクスは悠々と佇む大樹をみて互いに頷いて見せる。
「あの木が、このダンジョンのカラクリなの?」
フラウが自分なりの予測を含めて二人に聞いてみると、すぐにういういとユニクスの二人は頷いて見せた。
「ああ、そうさ。つまりこのダンジョン。実はそこまで広くはない。森っぽく見えるけど……実はそこらの雑木林を少し大きくした程度の広さしかないのさ」
「……どう言う事?」
何が言いたいのか分からないフラウ。
そもそも、この森の広さと無限回廊じみた現状とに何の関係があると言うのだろう?
どうにも分からないフラウに、そこでユニクスが穏やかに答えた。
「分かりやすく言うとね? 私達はあの大樹のせいで、同じ道を常に歩かされてるのよ」
「そう言う事だ」
「……えぇと、それは魔法かなにか?」
方向音痴になる魔法とかだろうか?
「大体は当たりだ。つまり方向が麻痺してしまう磁場みたいなのを意図的に出して、私達を意のままに操ってたんだ」
「そ、そんな事が出来る物なの?」
「これが出来ちゃうんだな。だからこそ、化物と呼ばれているんだろうよ」
信じられないと言わんばかりのフラウにういういも同感する感じの相づちを打って見せる。
方向を意図的に麻痺させる磁場を意図的に出す事が出来る為、本来の進みたい方向ではなく『進ませたい方向』へと無意識に進んでしまう。
よって、スタート地点に自分から戻って来てしまうのだ。
無限回廊染みた森は、こうして出来上がっているのである。
「こうなると、答えは簡単さ?」
言うなり、ういういは腰にある半片手剣を引き抜いて見せる。
そして、好戦的にニヤリと笑うと、
「あれをぶっ潰せば、全部解決さ!」
風神剣・大文字斬り!
ブォンッッッッ!
激しく半片手剣を縦にフルスイングして見せた。
刹那、フルスイングされた半片手剣から、十メートルはありそうな、巨大な剣圧が縦一文字に放たれる。
「ええぇ……?」
フラウは軽く引いた。
驚くと言うより引いた。
色々と反則的な技を見て来たフラウだったが、当然の様に必殺剣を使ったういういに、ちょっと頭がついて行けなくなっていたのだ。
「これが、一人前の冒険者なのか……」
フラウは誰に言うわけでもなく呟いた。
すると、ういういは軽く訂正する。
「一人前は少し言いすぎだぜ、フラウちゃん。あたしゃ……そこのみかんや母さんから比べたら、まだまだ半人前のミジンコなのさ」
「ミジンコ……?」
いやいやいや! とか、フラウは心の中で叫んだ。
ミジンコと言う単語がどんなレベルを指しているのかは知らないが、取り合えず蟻未満だと言っていると予測出来る。
簡素に言えば、カス以下だ。
しかしながら、そのカス以下とか嘯く、ういういの実力はフラウの能力を遥かに超越している。
スパァァァァァッ!
巨大剣圧は、大樹へとまっしぐらに飛んで行くと、そのまま一刀両断するかの様に真っ二つ。
綺麗に……かつ、鮮やかに二等分にされてしまった。
フラウからすれば、剣士のやってる芸当には見えない光景だ。
前衛であり、接近戦を主としている剣士は戦士と同じく、後衛を守る為に直接敵を叩く事が主目的としている。
よって、飛び道具は持たないし、遠距離の攻撃を得意とはしない。
てか、普通はしないのが通例だ。
ところが、ういういは剣士でありながら、風神剣とか言う遠距離攻撃をさらっとやってのけた。
果ては、極大魔法にだって負けない様な威力と来ている。
これまでのセオリーで考えたら、後衛がいらないレベルだ。
前衛に守って貰う事で、魔導式を紡ぎ出す時間を産み出し、魔導式を完成させる事で、前衛へと超強力な後方支援をすると言うのが、これまでの一般的な流れとなる。
しかし、ういういの様な前衛ばかりになってしまった場合、そもそも前衛が後衛の仕事も出来てしまうので、最初から遠距離攻撃を前衛がしてしまえば良くなってしまう。
……まぁ、魔導師の仕事は遠距離攻撃だけではなく、回復だったり補助魔法だったりあるので、後衛のメリットが一つ減っただけに過ぎないのかもしれないが。
しかし、だ?
「私の出番かな……と、思ったのになぁ」
見る限り、大樹は肉眼で確認出来ると言っても百メートルは離れていた。
そこを考えると、剣士ではなく遠距離を可能とする魔導師の出番かなと思っていたのだ。




