【3】
正直、何しに来たんだと、言ってやりたい。
「もう良いだろ? さっさと先に進もうよ」
「およ~……ういういさんはせっかちですねぇ」
「私からすれば、みかんがのんびり屋のお人好しにしか見えないんだけどな?」
軽い皮肉もそこそこに、二人は塔の奥へと進んで行く。
しばらくすると、人もだいぶ疎らになって来た。
途中、何ヵ所かで分岐点があったからと言うのもあるのかもしれない。
ちょっとした迷路になっていたのだろう一階の通路は、その分岐点がある度に、同行する人数を減らして行ったのだ。
気付けば、周囲にいた人数も数えられる程度にまで減っている。
「やっと、ダンジョン攻略らしくなって来たな」
笑みを作り、その反面で気を引き締め直したういうい。
実際、途中あった分岐点も適当に進んで来た所がある。
これがトラップの類いであれば、場合によってはもう死んでいる。
だが、単なる迷路でしかなかったのか? 現時点では、特になんらかの危害が発生する様子はなかった。
「今、私らは何番手位なんだろうなぁ?」
「……さぁ~? とりま百番目位にはいると思うけどねぇ」
迷路状になっている通路を進んで行く。
もう既に列はなく、眼前には数人の冒険者パーティがいるだけだった。
しかし、それでもモンスターとの遭遇は一切なし。
その代わりと言うのも難だが、モンスターの残骸ばかりが、先ほどからゴロゴロ転がっているのが分かった。
その一方で、冒険者が転がっている事は少なくなった。
純粋に数が少なくなったからと言うのもあるが、単純に脱落していない冒険者の能力が高いからと言うのもあるのだろう。
死んだら終わりの現実なのだ。
むしろ、普通はこうでなくては行けない。
つまり、冒険者は無謀な人間でありつつ、臆病な人間でなくてもいけない。
そうじゃなければ、文字通り生きては行けない家業だからだ。
更にダンジョン攻略を進めて行く。
途中、何個かの宝箱があったが、当然の様に開けられていた。
「……まだ、初日なのになぁ」
密かに、道中の副産物も期待していたういういは、少しだけ吐息を吐き出していた。
もっとも、ここはまだ一階。
恐らく、迷路の中盤程度には差し掛かっている物の、まだまだ序盤に過ぎない。
一応、みかんがマップを作り、これまで通った道は理解している。
そして、マップを作って行くにつれ、見えて来た物がある。
まず、この迷路は純粋にただの迷路だと言う事。
なんらかの無限回廊であったり、進む選択肢を間違えると死亡してしまう様なトラップもない。
しかしながら、マッピングもしないまま無計画に進むと、途中で帰り道が分からなくなって遭難する危険性はあると予測出来た。
簡素に言えば、難度Sを誇るオナハの塔においては、まだまだ小手調べの段階。
伝承では、勇者が一人前になる為の試練の塔でもあった事から、徐々にその難度を上げて行くシステムになっている模様だ。
「……ん?」
マップを作りながら進んで行くと、みかんはそこで赤い門の様な物がある事に気づく。
同時に、何人かの冒険者が仲間の冒険者に治療魔法を受けている姿も見えた。
「ほむぅ~」
取り合えず向かう。
同時に、ういういもみかんと一緒に赤い門の方へと向かった。
「……ここだな」
赤い門を見て、ポツリとういういは答えた。
内心でういういは確信する。
間違いなく、ここにいるな。
この階のボスが。
ダンジョンによって大なり小なりの違いはあるが、複数階のダンジョンである場合、その階にボスが存在する場合がある。
前に来た時は、既にボスが全て倒されていた為、結局は単純に通り過ぎただけで終わったのだが、今回は違う。
「面白い! やってやろうじゃないかっ!」
言うなり、赤い門を勢いよく開ける。
その瞬間。
『グギャァァァァッ!』
巨大オークが断末魔の声を轟かせた。
「……なぬ?」
思わずポカンとなるういうい。
オナハの塔、一階……名前も知らない冒険者にボスを倒されて踏破。
「えええええっっ!」
ういういは、思わず大声を上げてしまった。
「およ~」
「いや、およ~じゃないし! もう一階のボスドロップを他人に取られちまったぞ!」
ういういは半べそだ。
ちなみに、一階ボス撃破で貰える物は、雷オークの骨と肉。
それと、どこからとなく出現する宝箱。
中には稀少金属が入っていた。
踏破した冒険者が、それをドロップして入手している一部始終を見ていたので、その内容で間違いはない筈だ。