【8】
そんなリダの姿は、しっかりとした冒険者の服装をしていた。
二日程度の時間もあった為、街の防具屋で新しい装備を購入していたのだった。
ちなみに、フラウやユニクスも同じだ。
彼女達二人にとって、今回が初めての実践ダンジョンだったりもして、少し緊張の顔色が伺えたのだが、リダは敢えて何も助言せずに、緊張している二人を見守る形を取っていた。
助言するのは簡単。
ついでに助けるのも簡単だった。
しかし、それでは成長しないのである。
場合によっては、大した苦労もしなかった事でダンジョンを甘く見てしまうかも知れない。
こうなったら大変だ。
次のダンジョンで命を落としかねない。
そうであるのなら、まだ自分の目の届く範囲で存分に苦労して貰う。
その苦労は、今はまだ苦痛かも知れないが、いずれ後々のダンジョンで確実に芽が開き、大きな助けになってくれるからだ。
命がないのは自分かも知れない時代に到達しているこの世界……それだけにリダは、次世代への希望をフラウとユニクスの二人に大きく見出だしていたのだった。
「いつでも行けます、リダ様!」
「私も大丈夫!」
やや固い面持ちながら、二人共にしっかりとした返事をリダにみせた。
「うむ、良い返事だ!」
リダはニッと、快活な笑みを作った。
「みかんらもOK。このダンジョン終わったら、一緒に飲みに行こうよ、リダ~!」
「さぁ~て! お宝、お宝~っと!」
「う~。おしっこ行って来て良い?」
「お前ら、もう少し緊張しろよっ!」
他方のみかん組を見て、リダが思わず叫んでしまった。
ある意味、この三人はもう緊張とかしないのだろう。
これが日常なのだから。
しかし、そこを差し引いても……なんと言うか、脱力してしまう。
フラウやユニクスの二人も、こんな三人を見てると、無駄に緊張してる自分らがバカなんじゃないかなとさえ思えてしまう程だ。
「はぁ……ったく」
リダは吐息混じりだ。
正直、この真ん中程度のテンションが一番のベストなんだがなぁ……と、毒突き加減に胸中で呟くが、そう上手く行かないのが現実だ。
ゴゴゴゴッ………
リダがため息をついていた辺りで、カグ池から地鳴りが聞こえた。
どうやら、十二時に到達した模様である。
同時にそれはカグ池のダンジョン復活を意味する。
ザザザザァッ!
激しい水しぶきと共に、ダンジョンの入り口が浮き上がって来る。
どうやらゼンポー池と同じ造りの様である。
入り口だけは、だが。
果たして、六人はカグ池のダンジョンへと歩を進める。
中に入った先は、
「……森?」
周囲を見てフラウは片眉を曲げる。
彼女の知ってるダンジョンは根本的に洞窟だった。
正確に言うのなら、地下に潜った先に、森がある様な場所になど一回も行った事がなかった。
それは確かに道理だ。
普通に考えたら、地下に森なんかある筈がない。
しかし、その道理が通じるのは外の世界だけなのだ。
「ダンジョンってのはな? その造ったヤツの腕前にもよるが、往々にして自然の理はない。だから、ダンジョンでは常識は捨てるのが当然なのさ」
「なるほど……勉強になる」
リダの説明に、フラウは素直にコクリと頷いた。
「はは! 驚くのも仕方ないさ。けど、私はダンジョンを何回も経験して思ったのさ、世の中の当たり前ってのは、実は自分が当たり前だと思ってるだけの世界なんだってさ」
「……? どう言う事?」
「そうだな? 例えば……空は青い。雲は白い。当たり前だろ?」
「そうだね」
「だよな? んで、それが当然だから思わない『どうして空は青くて、雲は白いんだろう?』ってさ」
「まぁ、そう言う物だと思うから……」
「そう、それこそが固定観念ってヤツだ。生まれた時から今まで、それが当然として育って来た。特に疑問に感じる事もなく、だ。絶対そうだと思う訳だ……が、ダンジョンに限って言えば、絶対と言う二文字が存在しない」
リダの話しを当てはめると、空は必ずしも青くないし、雲は必ずしも白とは限らない。
それが、ダンジョンの世界なのだ。
「常識で物を考えるなよフラウ? ここでは、その常識が大きな足かせになる時もある。だから、色々な可能性を考えるんだ。最初からこんなの絶対にない……って考えないんだ。これはとても大切な事なんだぞ?」
「すごいよ、リダ……今、リダが熟練の冒険者に見えたよ」
「あたしゃ、現役のベテラン冒険者だってのっ!」
驚くフラウにリダはおもむろに突っ込んでみせた。
もっとも……フラウからすれば、やっぱりリダは同級生と言う感覚の方が強いのかも知れない。
「まぁ、別に構わないけどさ」
リダは苦笑した。




