【6】
「それにしても……こっちにも出て来たのか。伝承の道化師が……」
リダは少し悩む様に答えてから唸り声をあげる。
伝承の道化師は、リダVer本編でもチラホラと出て来ている名前だ。
リダの隣にいたユニクスに至っては、伝承の道化師に会った事がある位だ。
そして、それは……混沌の始まりを意味する。
伝承の道化師は、過去に幾度となく歴史を騒がせている張本人であり、出現した時代は一切の例外なく戦乱の時代になっている。
ユニクスの様な転生者が、あたかもバーゲンセールでも開催されたかの様に量産されるのも、伝承の道化師が出現した時だった。
転生した者は、ほぼ大多数の存在が特殊な能力を持つ能力者となり、この世界に災いをもたらす野心家になったり、その逆に世界を平定しようと考える英雄や勇者になったりする。
一説では、神にまで昇華した存在もいるらしいが……伝記での話しなので、実際の所は本当なのかまでは分からない。
何はともあれ。
伝承の道化師はこの世界の能力的なバランスを意図的に程よい状態にすると、なんだかんだと上手に誘導して、世界を争わせるのだ。
伝承の道化師が、どうしてこんなふざけた真似をするのか? その真意は未だ以て謎でしかない。
だが、確実に言える事は、伝承の道化師が出現したその時……世界は必ず戦争を始めるのだ。
まるで、時が定めた運命であるかの様に……。
「なんでこんなのが現れるのかなぁ……」
リダは頭を抱えてしまった。
ただ、これで納得した部分もある。
この世界で起きている異変だ。
これまでは全くの不明であったのだが、なんの脈略もなくモンスターが強くなっている。
これら、不明瞭なモンスターの強さの根元が、伝承の道化師であったのなら、納得が行く。
伝承の道化師は往々にして、世界のパワーバランスを均等にして、世界に存在する生きとし生ける者を戦わせるからだ。
同時に、今あるこの問題を解決する方法は、実にシンプルと言う事になる。
「伝承の道化師を倒す必要があるわけか……」
リダは誰に言うわけでもなく呟いた。
「最終目的はそれだとは思うです。思うんですが……それが簡単に出来るのなら、ここまで困らないわけですよ……」
リダの言葉にぼやきを入れたのはみかんだった。
物には順序と言うのがある。
いきなり目標に到達出来るのであれば、その過程など最初からやらなくても良いのである。
所が、世の中は早々上手くは出来ていない。
悲しいかな、答えを知っても尚、その答えに到達するまでには幾重ものステップを順序良く踏まないと到達しない時もある。
それが、現状だった。
「今やらないと行けない事は、カオス・ドラゴンの封印を防衛する事なのです。これをやらないと、コーリヤマの街は……」
言い、みかんは俯いた。
コーリヤマの街はみかんにとって、そこまで思い入れがある訳でもない。
特に生まれ育った街でも無ければ、育った街でもない。
しかし。
だからと言って、今あるこの街の笑顔を見殺しになんか……出来ない!
「本当、相変わらず優しいよな……お前は」
リダはクスッと笑った。
柔和な笑みだった。
「お節介焼きで、小さな親切を無駄にやって……でも、感謝されてる」
リダは独りごちた。
そこから頬杖をつき、独白するかの様に再び口を動かして見せる。
「昔、一人の見習い冒険者がいた。まだ冒険者に成り立てのガキなのに、ランクBになってて天狗になってた。そいつは自分が最強だと思ってた」
リダはここで苦笑した。
「そんなある日、みかんとか言う最下級の冒険者に会った。当時のソイツはこないだ冒険者協会の門を叩いたばかりで、D-の冒険者カードを私に見せた。私はため息混じりだ。ゴブリンすらまともに戦えないカスみたいなのと一緒に冒険するのか、と」
そこで、リダはみかんを見た。
ドが付くまでの真剣な瞳で。
「ところが、ヤツは見習い冒険者の数百倍……下手すればそれ以上の強さをまるで呼吸するかの様な自然さで見習い冒険者に見せつけた………ショックだった。最強の冒険者になんか、大した努力もしなくても勝手になれる。私は天才だからな! と、根拠もない自信を持っていた見習い冒険者は、初めて越えられない壁と言う物を実感した」
「………」
「その後、その見習い冒険者は人一倍の努力をして……なんか会長になって、ちょっとはみかんってヤツに追い付けたんじゃないかなって、思ってる」
「追い付いてますよ。もうとっくに」
みかんはニッコリと笑った。
リダもつられる感じで笑みを作る。




