【5】
少し後、六人座れる席に案内されたみかん・ういうい・シズの三人は、リダやフラウの二人と共に、店内の席に座って見せた。
座って間もなく、黒髪で黒い瞳をした絶世の美女と表現出来るだろう女性が、淑やかにゆっくりと微笑みながら、みかん達に向かって自己紹介して来た。
「申し遅れました。私の名前はユニクス・ハロウ。そこの席に座っているリダ様やフラウの一学年上の学生をしております」
何処か気品のある振る舞い方で、落ち着きのある風貌を見せつつ、みかん達をニッコリと穏和に見据えながら口を動かしていた。
「およ~。リダの先輩か~」
「てか、あの会長……先輩にも様付けで呼ばれてるのな」
「う~。リダは無駄にカリスマがあるから、きっとユニクスさんの意思でやってると思う。う~」
「そんな物かねぇ……」
ういういは腑に落ちない顔でシズの言葉に声だけを返していた。
「いや、ういうい。あたしゃ、様付けで呼べとは本気で言ってないぞ? 強いて言えば、私が色々あってユニクスに呪い掛けたら、ああなったんだ」
「むしろタチ悪いからっ!」
一応、リダなりの反論だったのだろうが、余計おかしな内容だったせいか、ういういからすれば輪を掛けてふざけた話しだと感じてしまった。
「ういういさん。私がリダ様を敬称で呼ぶのは、心からの敬服と敬愛を込めての事です。リダ様本人はフレンドリーに接して欲しいと思っているのです……とは言え、こればかりは私も引けないのです」
ユニクスは親しみのある柔和な笑みを、驚くばかりの朗らかさを作りながら、ういういに答えて言った。
この表情を見る限り、ユニクスが嘘をついている風には見えない。
仮にこれが偽りの笑顔だったのなら、もう何が真実なのか分からなくなる。
同時にそれは、シズの述べた無駄にあるカリスマ性と言う言葉にも繋がった。
「そうか……やっぱり会長にもなると、根本的な部分からして違う物なのかねぇ」
自分には良く分からない世界だなと、胸中でのみ付け足して。
「さて、これで一通り自己紹介も終わりだな? それじゃ飲もうっ!」
納得出来た様な出来ない様な、地味に複雑な顔になるういういがいた所で、リダが陽気にグラスを手にした。
「待ってください、リダ様」
「そうです、リダ! まだ、みかんさん達の紹介を聞いてないです」
脳内純度100%の飲みたい気持ちが先走りしていたリダを前に、フラウとユニクスが待ったをかける。
「いや、いいだろ……飲みながらでも」
「こう言うのは、礼儀です」
「はぁ……わかったよ。ったく」
ぶちぶちとぼやくリダは、つまらない顔のまま、フラウとユニクスの二人にみかん達の自己紹介をして見せた。
「まず、シズは……剣聖杯でみたから分かるな? あの剣聖だ」
「う~!」
シズに手を添えて言うリダに、シズがそこでグッジョブして見せた。
「次に、その娘がそこの黒い髪の子。ういういだ」
「え? 剣聖の!」
驚きの声を出したのはフラウだった。
流石に剣聖の娘だとは思わなかったらしい。
見れば、近くにいたユニクスも驚きを隠せない模様だ。
「最後の茜色したマッシュルームみたいな頭の女が……歩くチート魔神のみかんだ」
「あんたに言われたくないわ!」
みかんは速攻で叫んだ。
「そうだな、みかんを表現するには正しいと思う」
直後、ういういがリダの紹介に大きく頷いて見せた。
「スゴい人なのね……けど、みかんさんの突っ込みも分かるかな」
他方のフラウは苦笑混じりだった。
みかんの実力は知らないが、リダがチートなどと表現する位なのだから、神憑り的な強さの持ち主である事は容易に予測出来る。
しかし、リダも大概なチートなキャラなので、人の事が言えないのも事実だった。
「はい、これでいいだろう? いい加減飲もうぜ! あたしゃ、待ちくたびれた!」
リダは今にも泣きそうな顔になっていた。
どんだけ飲みたいんだ、あんたは……とかってフラウとういういが思っていたけど、敢えて口にはしなかった。
『かんぱ~いっ!』
少し後、みんなで乾杯の音頭をとってから、一斉に飲み始める。
楽しい晩餐が、思わぬ形で賑やかに始まってみせた。
「そう言えばさ、みかんやういういは、なんでクシマにいるんだ?」
リダは何気なく聞いてみる。
素朴ながら、少しだけ気になったのだ。
「あ~。それがですねぇ……」
「う~」
「……ちょっと、面倒な事になってな」
リダの問いかけに、三人は少しだけ声とテンションを落としてみせた。
「……? 本当に何があったんだ?」
「話すと長くなるのですが……」
今一つ、要領を掴めていないリダに、みかんが今までの事を話して行く。
「……は? それ、マジかよ……」
オナハの塔から始まり、ゼンポー池の迷宮までの一部始終を聞いたリダは、思わず唖然となった。
一概に信じられる話しではなかったからだ。




