【3】
しかし、である。
「……ま、いいか!」
逆に言うと、深く考える必要もない。
元から何らかの意図があって、バルクに声を掛けていたわけではなかったリダは、そこでテーブルに置いたグラスとマグナムボトルをそれぞれ手にして、フラウやユニクスの二人がいるカウンター席へと戻ろうとした。
その時だった。
「う~。あそこが空いてる」
聞きなれた声がした。
「……この声は、シズ?」
ちょっとだけ意外そうな顔をしつつ、リダは声がした方向を見た。
「ええええっ!」
その先にいた三人を見て。
リダにとって旧知の仲だった、ういういとみかんの二人を見てかなり驚く。
正直、この二人とこんなトコでバッタリ会うなんて、予想もしていなかったからだ。
居てもたってもいられなくなったリダは、弾丸の様な勢いで三人の元へと向かって行くのだった。
◎△▼△◎
時間は少し戻って。
ゼンポー池の迷宮を無事にクリアしたみかん達三人はその後、コーリヤマの中心地にあるホテルのチェックインを済ませた。
シズも良く愛用していたそのホテルは、冒険者協会が運営する宿泊施設でもあった。
「う~。ランクの高い冒険者だと、それなりに割引もしてくれる」
ちなみに、シズのランクだと全室半額になるらしい。
流石は伝説のランクLを保持してるだけはある。
「でも、食事とかはホテルのレストランよりも地元の定食屋とか酒場の方が美味しいから、あんまり使わない。う~」
反面、ホテルのサービスはあまり利用しない模様だ。
まぁ、この辺は飽くまでも個人の好みなのかも知れない。
チェックインを済ませた三人は、すぐにホテルを出て、コーリヤマの街中を軽く散策する形で練り歩く。
そこで、シズが提案して来た。
「この近くにとっても美味しい料理を出す酒場がある。う~!」
答え、シズは瞳をキュピ~ン☆ と光らせる。
「ああ、そこなら私も分かる。太陽と月の光だろ? あそこは旨いよな~? 値段も安いし!」
シズの言葉にういういも同感する形で穏和に頷いてみせる。
実は結構、コーリヤマの街に来ていたういういは、それなりに街のお店を知っていたのだ。
「へぇ~。それじゃ、そこに行ってみますか~」
「いいね!」
「う~!」
二人の言葉にみかんも軽く頷いて見せると、ういういとシズは二人揃って同時にグッジョブしていた。
こうやって見ると、この二人も親子なんだなと思ってしまう。
目的地が決まった三人はシズの案内の元、地元でも有名と言う酒場へと足を運んだ。
店内は、少し驚く位に喧騒と活気で溢れていた。
「およ~。随分と繁盛してる店なんですねぇ~」
店内に入ってすぐに、みかんは周囲をぐるっと見渡した。
ちょうど書き入れ時の時間だったのか、店内は多数のお客さんで一杯だった。
「……これ、席あるです?」
「……さぁ?」
なんとなく、席が無くてそのまま帰るハメになりそうな予感が、心の隅っこ辺りに産まれていた時だった。
「う~。あそこが空いてる」
指差しながら、シズは言う。
見ると、カウンター席ながら、三人がしっかり座れるスペースが存在していた。
良かった……と、みかんは胸を撫で下ろす。
なんだかんだで、二人がおすすめする、この店の料理やお酒を食べたり飲んだりして見たかったのである。
取り合えず、満席で門前払いを食らう事はなくなった模様だ。
思い、みかんはルンルン気分で綿毛を彷彿させる足取りそのままに、カウンター席へと向かおうとした。
その時だった。
「ええええっ!」
予想外の角度から、驚きの声が転がって来た。
しかも、この声にはみかんも聞き覚えがある。
「まさか……ねぇ?」
一応、聞き馴染みのある声質ではあったのだが、同時にあり得ない声だとも感じた。
ちょっと前にシズから聞いていたのだが、この声に似ている人物は色々あって学園で学生をしているらしい。
この言葉が確かならば、コーリヤマの酒場にいる筈がないのだ。
よって、声の主はみかんも知らない人間である……筈だった。
「なんだよ~! お前ら、ここに来てたのか! なら連絡くらいよこせよ! 私の水晶に!」
だが、そこからやって来た人物は……どう見てもみかんの良く知る人物以外にしか考えられない。
強いて言えば、少し若いと言うか幼くなってるかな? 程度だ。
余談だが、一定の魔法が使える人物は、小さな水晶玉を使って通信を取る事が可能だった。
簡素に言えば、スマホみたいな魔法があるわけである。
「う? あれ? リダ?」
「およ~。やっぱりリダでしたか~」
シズとみかんはやや不意を突かれた感じの声を出した。
意外を通り越して、謎と言うばかりの顔になっていた二人を見て、リダはむすっとした顔になっていた。




