【1】
「いや~~~~っ! さいっこ~だな、コーリヤマ!」
超ハイテンションで顔を真っ赤にしたまま騒いでいたのは、銀髪の長い髪を両サイドに束ねていた、天下の会長様だった。
コーリヤマの繁華街にある酒場にやって来ていたリダは、同行していたフラウやユニクスの三人と一緒に楽しいコーリヤマ観光をしていたのだった。
実際、色々な場所を見て回り、それなりに一喜一憂しながらの一日だったりもする。
リダからすれば、大満足の一日だった。
現在は締めとして、地元の人間が好んで立ち寄ると言う噂の酒場にやって来ていた。
実はリダ。
お酒が大好きだ!
三度の飯代わりにお酒が出て来ても問題ないまでにお酒が大好きだ!
しかしながら、曲がりなりにも学生と言う身分になってしまったが故に、ほぼ酒を絶っていたのだが……。
「うははははっ! いや、ここの酒はかなり旨いぞ! でかした、フラウ、ユニクス!」
学園を出て、観光していると言う事もあり、リダは見事にこれまでの禁酒状態を解禁して、浴びる様に飲んでみせたのだった。
「あはは……えぇと、リダ。流石に飲み過ぎではないですか?」
一応、誉められた事で気を良くしたフラウだったが、酒神バッカスの化身染みた飲み方をしていたリダには、ちょっとだけ呆れてしまった。
「まぁ、良いじゃないの、フラウ。リダ様がここまで気を許して下さるのだから、私はむしろ光栄に思う程よ」
呆れ眼になっているフラウの隣に座っていたユニクスは、ほんのりと淑やかに微笑みながら答えた。
ちょっとだけリダVerのネタバレになってしまうのだが、ユニクスはとある一件により、リダを心から尊敬する様になって行くのである。
それは冒険者協会の会長だからと言うわけではなく、人間としての根本的な器の大きさに尊敬の念を心の底から抱く事になるからだ。
なるんだけど……だ?
取り合えず、この話題はここまでにして置こう。
「リダ様に何か起きたとしても、この私がいる限り、絶対にリダ様を危険な目には合わせない……そう言う私の気持ちをちゃんと理解して下さるからこそ、ここまで無防備な行動を取っているのだと思う。そうであるのなら、私は涙が出る位に嬉しいわ」
「……リダにそこまでの配慮が出来るとは思えないけどなぁ……」
「コラッ! リダ様に失礼でしょ?」
ユニクスはやや本気で眉をつり上げた。
「ごめんなさい!」
フラウはすぐに謝ってみせる。
ここ数日でわかったのだが、リダに対する物の考え方が、色々と神になってしまっている為、ユニクスに向かってリダの悪口は言えない傾向にある。
……と言うか、言えない。
ユニクスからすれば、リダの悪口は神への冒涜に等しいのかも知れない。
これではリダ教の信者である。
どんなカルト教だよと、フラウは心の中でのみ嘆息した。
「……うん?」
そこで、リダの視線がカウンターの辺りで止まる。
視線の先にいたのは、金髪の青年だった。
カウンター席に座り、溜め息を混じらせながら、重い空気を無秩序に製造していた青年は、前回に出て来た鎧姿の冒険者、バルクだ。
前回は鎧姿だったが、酒場にやって来た今の彼は、普段着なのだろう布製の服を小洒落た感じで着こなしていた。
「なんだい、辛気くさいヤツだなぁ……」
リダはつまらない顔になり、間もなくカウンターに座るバルクの元へと歩き出した。
「え? ちょ……リダ!」
そこからすぐにフラウが止めに入ったのだが、ユニクスがフラウを制止した。
「大丈夫よ。リダ様の事だから、何か深い理由があるのよ」
ユニクスはにっこりと笑って言う。
フラウ的に言うのなら、単純に酔って名前も知らない相手に絡んでる様にしか見えなかったけど、敢えて口にする事はなかった。
言えば、ユニクスの機嫌が悪くなるからだ。
リダが勝手にやってるだけの事でもあるし、フラウが気にする必要もない。
……でも、他人の迷惑になる様な?
ダンッ!
素朴な正論をフラウが抱いてた頃、リダは真っ赤な顔のまま持っていたグラスをバルクの前に叩きつける様にして置いてみせた。
「さっきから見てれば、何だいアンタは? そんな葬式帰りの様なツラして、どこの葬儀会場に行って来たんだい?」
「……君は?」
「あたしか? 私はリダ・ドーンテ……」
リダの口がピタッと止まった。
そこから、ちょっとだけ考えた。
「……リダだ! け、決して会長とかしてないからなっ!」
リダはふためきながら、聞いてもいない事をバルクに言う。
「………」
フラウは無言のまま、半眼になっていた。
内心では思う。
酔っぱらい過ぎだ! と。




