【17】
「……出来た」
更に五分が経過した所で、みかんがポソリと口を開く。
周囲に超巨大な魔法陣が出現したのは、そこからすぐだった。
「……うわっ! まぶしっ!」
一瞬にして、真昼の太陽が地面に出現したのかと勘違いしてしまうばかりの光が辺りを覆い尽くす。
目映い輝きを見せる魔法陣は、まるで金色の原っぱであるかの様だ。
ひたすら続く広い空間に、金色の光で満ち溢れる。
「す……すげー」
純粋に驚いたういうい。
現実と幻想の区分けが付かない位、非現実な光景が当然の様に視界一面に広がっていた。
「う~。これ一つだけでも、カオス・ドラゴンの封印をする事は可能だ……が、一つだけでは、封印の力として心許ない。何かしらのアクシデントで封印が解けてしまう危険もあった」
そこで、五つある全ての池にあるダンジョンに封印の魔法陣を張り、より確実かつ強固な封印術を展開したのだった。
「そうか。なるほどな……けど、一つ一つがそこまで強力だったのなら、五つも魔法陣を作る必要はなかったんじゃないのか?」
「カオス・ドラゴンが相手なら、そうなる。本当なら二つもあれば十分だったと思う。しかし、みかんさんはより確実に封印し、封印後も少しの事では開封されない様にする為、敢えて従来の封印術を行った。つまり五つ全てのダンジョンを攻略して、全てに魔法陣を敷く方法だ」
「面倒な事をするヤツだな……まぁ、より安全な選択肢があるなら、それを選ぶ辺りはみかんらしいけどな」
シズの説明に、ういういは少しだけ苦笑して見せた。
そうなると、気になる事もある。
元来の相手がカオス・ドラゴンではなかったとするのなら、本当に封印する予定だった相手とは何者だったのか?
「このダンジョンが出来た理由ってさ、結局は封印……つまり、このダンジョンの最奥に魔法陣を敷く事だったんだろう?」
「う? そうなるな。元は二百五十年程度前に魔法陣を作って強大な封印術を施し、その上でダンジョンを作った。このダンジョンは言わば封印を阻止する為の守護者だったのだ」
所が、封印術は発動されないまま、ダンジョンだけ建造されてしまい、その二百年後には皮肉にも敵対者として戦うハメになってしまう。
これが五十年前の話だ。
「じゃあさ? 本当は誰を対象に封印術を使うつもりだったんだ?」
「う? う~……流石に二百五十年も前の話になると私も産まれていない事だから、少し曖昧になるが……確か伝承の道化師とか言うのが相手だった気がする」
「……っ!」
思い出す様に答えたシズに、ういういは息を飲んだ。
伝承の道化師
この名前には聞き覚えがある。
いや、覚えがある所の話ではない。
ほんの数日前……みかんと一緒に攻略したオナハの塔で出会ったばかりの相手であったからだ。
「アイツ……そんなにヤバイ奴だったのか……」
目線を下にしたまま、歯を激しく食い縛った。
「う? まさかお前、伝承の道化師に……?」
「まぁ、色々あってな」
「う? うううう? う~っ!」
やや歯切れが悪い物の、しっかりと肯定して見せたういういに、シズはパニック状態になってしまった。
シズの記憶が正しいのであれば、そんな筈はなかったのだ。
「伝承の道化師は、二百五十年前に起きた世界大戦で滅びたと聞いてた。う~」
その結果……本来なら伝承の道化師を封印予定だったこのダンジョンも、使われる事なく二百年も放置され、五十年前になってようやくカオス・ドラゴンの封印をする為に使用した。
だが……。
もしも………。
今になって、伝承の道化師が実は滅びてなどいなかったとするのなら……。
「世界が……混乱する」
言ったのはみかんだ。
神妙な顔付きのまま、口だけを動かしていた。
「そ、そうなる。うぅぅぅ……」
一気に血の気が引き、完全に青ざめた顔になったシズは、みかんの言葉に力無く頷いた。
「まさか、アイツが生きていた事に驚いたけど……ね」
みかんは答えて俯いた。
しばらく沈黙が周囲を支配する。
少しして、みかんが沈黙を破った。
「でも、今はともかくカオス・ドラゴンが先です~。まずは第一の封印をする事が出来たです。これは大きい一歩なのです!」
無理矢理だったかも知れないが、笑顔を満面に作って活気のある声音を二人に放った。
二人はみかんの言葉に頷く。
「そうだな。なにはともあれ、まずは素直にダンジョンクリアを喜ぶか!」
「う~っ! 確かにそうなんだ、う~!」
シズとういういの二人にも笑顔が生まれた。




