【16】
「これは、どんな効果がある、う?」
「そ~ですねぇ……えぇと、確か海龍王の力が装備に付与された筈です」
「う?」
「つまり、装備してる剣に海龍王の攻撃がついて、装備してる防具に海龍王の庇護が付くのです」
簡素に言えば、純粋に攻撃と防御が上がる。
そればかりか、海龍の技術の一部が使用可能になり、水属性の攻撃や防御まで可能になると言う優れもの。
「特に海龍王の庇護はすさまじく、首に下げてるだけで、あらましの攻撃をシャットダウンしてくれます」
装備した状態で戦闘が開始されると、透明な泡の様な物が出現して、外敵から身を護ってくれると言うわけだ。
簡素に言うのなら、みかんの首元に掛かっている魔導器や、リダの自動技術なんかと同じ代物である。
「う~。なるほど」
みかんの説明を耳にして納得したシズは、手にしていた海龍王の首飾りを、そのままういういへと手渡す。
「……え?」
思わず目をパチクリさせてしまった。
まさかシズが自分に渡す気でいたとは思わなかったのだ。
「私には必要がない。こう言う便利アイテムは半人前が使って初めて役に立つアイテム」
「半人前で悪かったな!」
しれっと言うシズにういういはすぐさま喚いてみせた。
しかし……反論出来るかと言われたら、出来ないと言うのが正直な所でもある。
「……その、ありがとう」
「分かれば良い。くれぐれも、売るなよ」
「私はそこまでセコくないやい!」
内心少しだけ『これ売ったら幾らくらいになるのかな……』とか考えてたので、ちょっとだけ胸中を見透かされた気持ちにはなったけど、本当に売るつもりはなかった。
ここで、実際に海龍王の首飾りを売ってしまったのなら、ういういは最高の親不孝者になってしまうだろう。
そんなつもりは毛頭ない。
「ちゃんと大事に使わせて貰う」
「うむ。それなら良い。う~!」
言い、早速首飾りを装備して見せるういういに、シズはにこやかに笑ってグッジョブしてみせたのだった。
水の無くなった部分に新しく生まれた階段を降りると、ただただ広い空間が広がっていた。
「なんだ、ここ?」
「この迷宮の最深部……かな?」
右を見ても左を見ても、ただただ床があるだけ。
ずーっと向こうを見据えれば、奥の方に壁らしき物があると分かるだけ。
それ以外は特に何もなかった。
「う~。元々は違う相手ではあったが、巨大な封印をする為の魔法陣を作る為に作られた場所……それが、ここだ」
辺りを軽く見渡すういういに、シズが説明する形で口を開いた。
現在も交易都市として大いに繁栄している街だが、昔から宿場町としてそれなりの大きな町でもあったコーリヤマには、巨大な封印をする為の魔法陣を敷く適当な場所がなかった。
そこで目を付けたのが、この五大池の最奥に存在している、広大な空間であった。
シズも述べた通り、元々は違う目的ではあったのだが、結果として五大池のダンジョン最深部に存在する現在の場所は、カオス・ドラゴンを封印する為に必要な巨大魔法陣を敷くのに最も適していたのである。
ダンジョンの奥底にある為、周囲に住む地元民の土地に魔法陣を敷く必要がなく、それでいて街の中に魔法陣を敷く事でカオス・ドラゴンが攻めて来た時の有力な防衛手段にもなったのだ。
極論からすれば、街に攻めて来たカオス・ドラゴンを逆に封印する事が出来たのだった。
しかし、最奥にひっそりと存在している場所であるが故に、この場所にやって来る為にはダンジョンの踏破が必須条件でもあった。
「昔……まだまだ半人前であった私は、この迷宮を含めた五つのダンジョンをなんとか攻略し……そして、みかんさんによってカオス・ドラゴンを封印する為の巨大魔法陣を敷いたのだ。う~」
「なるほどね。そんな事があったのか」
追憶の中にある自分を思い出す様に答えたシズに、ういういは納得加減の頷きを返していた。
「それじゃ、ういういさんとシズさん。ちょっと時間を貰うです。封印の魔法陣を敷くです」
「ああ、わかった」
「う。オーケー!」
二人に軽く断りを入れた所で、みかんはカオス・ドラゴンの封印をする為の魔法陣を作り出して行く。
そこから、十分が経過。
「……みかんですら、こんなに時間が掛かるのかよ」
十分が経過し、尚も魔法陣を作り続けるみかんを見ていた所で、ういういが意外そうな顔になっていた。
みかんの発動速度はういういも良く知っている。
超魔法ですら一瞬で発動させてしまうレベルだ。
「う~。封印に必要な魔法陣は、本当なら高レベル魔導師が何百人も必要な高次元の魔法陣。時間だって、みかんさん以外がやれば三日は掛かる」
「……マジか」
真剣な顔で言うシズに、ういういは少し驚いていた。




