【15】
強大な波は、そのままシズを力任せに飲み込み、尋常ではない波にさらわれて行く……筈だった。
『……な、なに?』
しかし、大波の一撃を受けても尚、シズは一歩も動く事なく……まるで山にでもなったかの様に、その場に佇んでいた。
「五十年前。私はこの攻撃で敗れそうになった……いや、敗れたと言っても過言ではない」
当時、シズはやはり同じ要領で大波を受けた。
その一撃で瀕死級の大打撃と受けた。
……あの時、みかんが近くに居なかったのなら、この場にシズは立っていないだろう。
「あれから五十年……私は大波に打ち勝つ為の修練を死ぬ程やった」
文字通り、血の滲む鍛練の連続だった。
だが、その成果はしっかりと形として現れたのだ。
奥義・剣聖の護り
先代より受け継ぎ、更に自身の努力で超強化された最大最強の防御技だ。
使用すれば、属性や状態に関係なく完全に無効化出来る。
リダの自動技術やみかんの魔導器と違い、防げる威力の上限も桁違いで、ぼぼ大多数の攻撃を無効に出来る。
反面、この技を使用している時は、大幅な行動の制限を掛けられてしまう為、戦闘に参加する事が出来ないと言うデメリットもある。
なにはともあれ。
「その程度の波で、この剣聖が流されると思うな」
ニィ……と笑う。
同時に剣をかざし、
必殺! 雷神・百烈波!
カッ!
ドドドドドドォォォォン!
百の稲妻が、一瞬にしてシズの剣から飛び出し、リヴァイアサンを直撃した。
一見すると単純に一振りしただけに見えるが、実は違う。
残像が残るんじゃないかと思えるばかりの速さで百回剣を振っている。
その一回、一回に稲妻が放たれていた。
もはや神業所ではなかった。
ともすれば、神様その者ではないかと嘯きたくなる。
更に直撃した稲妻は、一つ一つに雷神の力が上乗せで加えられ、
ドドドドドドドォォォォォン!
更にダメ押す様に、雷がヒットした部分の一つ一つが個々に大爆発を起こした。
『……み、見事だ』
感嘆とも表現出来る言霊を最後に、リヴァイアサンの身体が崩壊して行く。
崩れ行く身体は、間もなくゆっくり、スゥゥ……と、消滅して行った。
「……やっぱり、この人に逆らってはいけないな」
魔法の絨毯からシズの必殺剣を見ていたういういは、ちょっとだけ母の強さに恐怖した。
次からは、もう少し優しい言葉を母上様に言う事にしよう……とか、本気で思ったういういであった。
▲△▽△▲
リヴァイアサンの消滅と同時に、池の水が完全になくなる。
その先には下の階層に繋がる階段と宝箱が。
「お~っ!」
当然の様に、喜び勇んで開けに行くういうい。
三秒後にシズのとおせんぼを喰らった。
「今回は私が倒した。う~」
だから私のだと言いたい。
「え~。良いじゃん。減る物じゃなし」
「減るだろ! 宝箱の中身が!」
口を尖らせたういういに、シズが的確なツッコミを入れていた。
何となくだが、ボケとツッコミの立ち位置まで微妙に変わっていた。
「わかったよ……今回は譲れば良いんだろう?」
でも、高そうな素材なら、少しはお裾分けして欲しいな……とは思った。
ガチャッ!
シズが宝箱を開けた瞬間、
パァァァッ!
と、宝箱が光り出す。
これは、超レア・アイテムが入っている時の光だった。
思わず、ういういの顔がうげっと強ばる。
これ、確実に良いのじゃないかよ! とかって地団駄を踏みそうになった。
中身は……。
「う?」
「おおおおおっっっ!」
みかんが感嘆の声を上げた。
間もなくういういが悲痛の吐息を重々しく吐き出した。
ういういには、宝箱の中身が何であったのかは分からなかったのだが、みかんが思いきり反応している時点で、もうお値打ちなのだ。
そんな、ういういには良く分からないけど、確実に秘宝だったのだろう代物は、
「海龍王の首飾りです~! うぁ……は、初めて見たぁ!」
「みかんも初めてなの?」
興奮してるみかんを前に、ういういは意外そうだった。
それでいて思う。
「それなら、どうしてそれが、海龍王の首飾りだと分かるんだ?」
「それと同じ物を本で見た事があったんです。龍神の書庫で!」
「まじか!」
……と、言うかあんたはなんでそんな書庫に入れるんだと、内心で思ったういういだが、敢えて口にする事はなかった。
龍神の書庫は、文字通り龍神が所持する伝説級の書庫だ。
そこには、ありとあらゆるドラゴンに纏わる様々な情報が本として山の様に存在するらしい。
当然、人間が入れる様な場所ではない。
その龍神の書庫にあった本の中でのみ、記憶していた幻のアイテム。
それが、どうやら……今回のシズが手にした代物と言う事になるみたいだ。
「うぁぁ……いいなぁ……それ、もう、お金で買えないレベルです。普通は博物館とかで展示されてるレベルです! まさか、実物を見る事になるなんて……」
興奮で胸が一杯になるみかん。
ういういはため息混じりだ。
「くそぅ……今回ばかりは、私が意地でも出張るべきだった」
がっくりと膝を着き、お金では換算不可能と言う幻のお宝を前にがっくりと項垂れた。




