【12】
「こんなトコに夢ってヤツは転がってるんだな!」
「そうですね! 驚きです~! 三億もあったら、三日は遊んで暮らせますよっ!」
「私は、お前の金銭感覚に驚いたよ……」
嬉々として答えたみかんに、ういういが呆れ眼でぼやきを入れた。
そんな二人のやりとりを尻目に、シズがお先に二層目へと歩き始めた。
「それじゃ、次の階層に行こう。う~」
死神を倒した後、どこからとなく出現した階段を指差し、そのまま歩き続ける。
みかんとういういの二人もまもなくシズの後を追う形で二層への階段に進んで行った。
階段を降りると、今度はブロック塀で区切られた、オーソドックスな通路にやって来た。
耳をすますと、どこからとなく水が滴り落ちる音がする。
そこから予測するに、ブロック塀で区切られてはいるが、その外側は鍾乳洞になっているのかも知れない。
「意外と普通のダンジョンだな」
「まぁ、あれです。一応迷宮だから、迷路風味になってるのかもです」
「それ、する意味があるのか?」
「……さぁ?」
飽くまでも、気持ちの問題なのだろうか? ふと、そんな事をぼんやりと考えていた中、シズが厳しい顔付きで二人に口を開いて来た。
「う~。二人共、もう少し緊張感を持った方が良い。ここは五十年周期の高難度ダンジョン。常に用心して進む必要がある。う~」
「あはは~。申し訳ない」
シズの言葉にみかんは苦笑しながら謝ってみせた。
他方のういういは少し呆れ眼になる。
「はいはい、もちろん用心してるよ……ってか」
カチッ………
その時、何かのスイッチが入る音がする。
音がした場所は、シズの足元だ。
「……そう言う母さんこそ、もう少しトラップに気を付けた方が良いんじゃないのか?」
「う?」
「いや、う? じゃないから! あんた、明らかにやっちゃ行けない事したからっ!」
誤魔化してるのか? 何処と無く愛想の良い顔をして……でも、やっぱり嫌な汗とかをたら~んと流していたシズに、ういういが思いきりがなり立てた。
ドドドドッッッッ!
次の瞬間、みかん達の後ろからけたたましい水の音が聞こえた。
「こ……これ、マジでヤバくね?」
ういういが顔を青くさせた時、
水の呼吸魔法!
みかんが咄嗟の判断で補助魔法を発動させた。
その直後、後ろからやって来た滝の様な水が、みかん達三人を一瞬にして飲み込んで行った。
ザッパァーンッッッ!
「おわぷっ!」
「う~~~っ!」
「およ~~っ!」
通路の全てが水で埋め尽くされ、そのまま激流に流される様に三人は通路を進んで行く。
「ぶばべんば、ばがっ!(ふざけんな、バカっ!)」
「うぅ~~~」
「まぁまぁ。ごごばばんぼばびまびょう~(まぁまぁ。ここは何とかしましょ~)」
見事な水のトラップを受けてういういが怒り、シズが唸ると、みかんが宥める感じの事を言っていた。
シズの場合は水中でもカッコが要らないのは、ある意味で凄かった。
「べか、びぎぶべるんばな?(てか、息吸えるんだな?)」
「びょぐべんび、ばぼぶぼばべばべぶ~(直前に魔法を掛けたのです~)」
「う~~!」
そこでシズがしてやったりな顔をしてた。
どうしてドヤ顔してたのか知らないし、聞いたらスゴくふざけた理由っぽいから聞きたくもなかったけど、果てしなくムカッとした気持ちで一杯のういういがいた。
そのまま、三人は水の流れに逆らう事なく通路を凄まじい勢いで進んで行く。
後ろの方から槍が飛んで来たのは、そこから間もなくの事だった。
「……っ!」
突然の事に、思わず目を大きく見開きつつも、ういういはギリギリでかわした。
みかんとシズは既になんらかの殺気を感じていたのか、比較的余裕をもって槍から離れていた。
「ばべっ!(あれっ!)」
みかんは指を差した先にいたのは、数体の半魚人だった。
半魚人は水の利を活かし、かなり遠い所から槍を投げて来る。
「ぶっ! ぼぼうっ!(くっ! このうっ!)」
今度はういういが腰の片手半剣を抜いて、槍を叩き落とす。
しかし、尚も槍が飛んで来る。
「ばべんばぼっ!(舐めんなよっ!)」
必殺! 風神十字斬り!
シュバァァァッ!
ういういの片手半剣から鋭い空気の刃が十字で飛び出す。
放たれた十字の刃は水の抵抗を物ともせず、一直線に突き進むと、
ザシュッッッ!
前にいた半魚人を十字に切り刻む。
この一撃で動けなくなった半魚人の後ろにいた他の半魚人も捲き込まれる形で倒れて行った。




