【11】
「弱くなったな、死神よ」
大鎌を手放し、片膝を付く骸骨を前にゆっくり歩きながら、淡々と口だけを動かして行く。
「……いや、違うか。私がこの五十年で力を付け過ぎてしまったのかも知れない」
『……お、お前は………』
今にも消え入りそうな骸骨……死神は、シズの存在を見てハッと息を飲む。
そのお団子頭には覚えがあった。
ここまで簡単ではないにせよ、このダンジョンが攻略された時、両端にお団子を乗せた少女に倒された。
『……あの時の……?』
「う? 察しが良いな。あの時の私は、お前とほぼ互角の勝負をしていた……懐かしく思う」
しかし、あれから五十年。
片や復元されるまで消滅状態だったダンジョンのボスとは違い、五十年の時を経て強くレベルアップしていた今のシズにとって、もはや敵ですらなかった。
「じゃあな、死神。次は会えるか分からないがな」
冗談めかした声音でクスリと笑った。
次、もし目前の死神に会うとしたら、更に五十年後と言う事になる。
流石にその時まで生きているとは限らない。
『次の復活の時は、もう少し遅く来てくれる事を願おう………』
シュゥゥゥン………
死神は弱々しい言霊を周囲に飛ばし、風の様に消滅した。
「あ、ありがとうございます」
バルクは即座にシズへとお礼を言う。
チャキッ!
その返事は剣先で返って来た。
「……っ!」
バルクの顔が露骨に引き釣った。
完全に狼狽し、冷や汗を垂らすバルクがいる中で、シズが冷たい瞳を色濃く作り出しながら言う。
「う? これでわかったろう? さっさと引き返せ。チョッコには私の方から言って置く」
そして、この答えがノーであれば斬る。
実際にそう答えてはいないが、剣先をわざわざバルクの鼻先に向けているのは、そう言った意味合いがあるのだろう。
「……わかりました」
渋々ながら、バルクはシズの要求に許諾する。
「お前ら二人もだ。いても役に立つ所か、邪魔にしかならない」
直後に、剣先をマサトとキウイの二人に向けて叫んだ。
「はい! わかったです!」
「了解、母上様!」
しかし、了承した二人はみかんとういういだった。
「って、あんたらじゃないから! あんたら二人は帰ったら泣くからね、う~~~っ!」
シズは本気で泣きそうになっていた。
「わ、わかりました……し、正直、ここまで実力差が出るとは思いませんでした」
「もっと精進して出直します」
妙な茶番が合間に入ってしまったが、マサトとキウイの二人もシズの言葉に頷いて見せた。
「う~。帰り道、死なない様に頑張れ」
シズはにこやかに手を振る。
こうして六人だったパーティは、みかん・ういうい・シズの三人になるのだった。
ちなみに、バルク達三人はその後、迷宮の第1階層を戻る事になるのだが、幾度となくアンデット集団に全滅寸前の憂き目に合いながらも、なんとか生き延びて迷宮を脱出したらしいが、余談程度にして置こう。
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第一階層のボス、死神を倒した事で、ボスドロップと宝箱が発生していた。
ボスドロップは『死神の呪い』と呼ばれるスキル・ブック。
使うと技術死神の呪いが発動する。
発動すると、最短で三日……遅くても一ヶ月以内に近くで浮遊する死神に目を付けられ、最終的には冥界に連れ去られてしまう。
つまるに、死の宣告的な呪いのスキルである。
通常戦闘ではなんの役に立つのかで迷う。
最短で三日経たないと死なない技になんの意味があるのか?
「でも、とりあえず覚えておこう」
「おぼえるのかいっ!」
それでも折角だからと、ういういがスキルブックを使っていた。
スキルブックは第三者に売る事が出来ない特殊なアイテムである為、仮に使わなかったのなら、他は捨てるしか選択肢がなくなってしまうのである。
それなら、もったいないから使ってしまおうと言う考えだ。
根本的に使える物はなんでも使う、浅ましい精神がういういに新しいスキルを覚えさせていた。
宝箱は希少結晶。
非常に価値が高い結晶。
魔除けにもなるが、根本的には道楽の一つで、主に貴族や王族のアクセサリーに使われる。
大きさや輝きによって違うのだが、
「なぁ、母さん、これ幾らくらいだと思う?」
「う? う~。クシマ王が同じ位の持ってるけど、確か三億くらいって言ってた、う~」
「さ、三億?」
今ある希少結晶の価値は推定三億の様だ。




