【8】
名前をリダ・ドーンテンと言った。
もうお分かりだろうか?
「まぁ、冒アカからここまで、三百キロはありますからね。長旅になるのは仕方ないですよ」
やや間を置いた所で、今度は金髪の少女が降りて来た。
いかにも気の強そうな少女だ。
そして、胸元が平たい少女だ。
こちらも、リダと同じ程度の年齢に見える。
リダVerを読んでる賢明な方は、おおよその見当が付いているだろう。
そう、彼女の名前は、
「それより、ペッタン子。ここの名物はなんだ?」
「ぺったん子言うなぁっ!」
ぺったん子でお馴染み、フラウ・フーリだ。
最近はこの単語も薄くなって来ているので、お馴染みなのかは微妙だが、胸がない事だけは変わりない。
「そうですよ、リダ様。この子はこれからがあります。未来は豊満なボディになってる可能性だってあるのですから、ぺったん子(暫定)と、この様に言わないと」
そこから、もう一人の女性が馬車から降りて来て、フラウのフォローを彼女なりに述べてみせた。
当然、フォローになってなかった。
「ユニクスお姉……一応、私の事を思ってくれてるんだろうけど、むしろ辱しめてる気がするよ……」
フラウは苦笑しつつ、そして口元をヒクヒクさせながら言っていた。
「そうだった? ふふふ。ごめんね」
女性は悪びれた素振りもなく謝ってみせた。
黒髪・黒目の、どこか神秘的な女性とも言えた彼女の名前はユニクス・ハロウ。
この時点だと、彼女達の本編であるリダVerでは……うん、ネタバレしそうだから、余り言わないで置こう。
閑話休題。
果たして、この三人はどうしてコーリヤマの街にやって来ているのか?
フラウとユニクスの二人にとって、コーリヤマの街は生まれ故郷でもあった。
そこで、冬休みを利用しての里帰りをしていたのである。
他方のリダは、二人の里帰りに誘われたので、暇潰しがてら観光に来ていたのだった。
「この街に来たのは何年振りかな? 相変わらず交易の街って感じで活気があっていいトコだよな」
リダは軽く周囲を見渡して言う。
確かに街は活気に満ち満ちていた。
行き交う行商人は数知れず。
周囲で露天をしている人間の元気な声が今も飛び交っている。
喧騒が絶えない街並みは、なんとも言えないバイタリティーがあった。
「んで、だ? フラウとユニクス。ここの名物ってなんだ?」
軽く周囲を見渡した所で、リダは二人に尋ねてみせた。
「そうですね……果物が美味しいです」
「野菜も新鮮ですよ? あ、お肉もですね? 実は密かに美味しいんです」
フラウは自分なりに思いついた物を言い、そこに合わせる形でユニクスが補足した。
「そうかぁ~。果物にお肉、野菜か~。今日は楽しい一日になりそうだな!」
快活な笑みを満面に見せるリダ。
二人も穏やかに笑った。
完全な観光目的でやって来たリダと、単なる帰郷が目的だったフラウとユニクス。
だが……しかし。
お気楽にコーリヤマのグルメを満喫するだけの旅行が、思わぬ形で街の命運を左右するクエストに向かう羽目になろうとは、この時の三人には予想も付かなかった。
▲△▽△▲
ゼンポー池の迷宮一階にやって来たみかん達一行は、そのまま順調にダンジョンを攻略して行った。
否、順調などと言うレベルではない。
シズを先頭に五人が後ろを歩き、ただ後ろを歩いているだけだった。
迷宮内に入ると、大きな洞穴の様になっており、鍾乳洞チックな場所になっていた。
中に明かりはなく、真っ暗な暗闇になっていたのだが、
星の照明
明かりがない事が分かったみかんがすぐに照明魔法を使い、周囲を照らした。
発動するとイラスト調にデフォルメされたかの様な、ヒトデ見たいなお星さまがポンポンと無数に出て来て、みかん達の頭上をふよふよと泳ぐ様に浮遊しながら、辺りを照らし続けるのだ。
こうして視界が開けた先にいたのは、待ってましたとばかりに迎撃態勢を取っていた骸骨兵の群れだった。
数にして、軽く三十体はいたろうか?
しっかり数えたわけではないが、おそらくその程度の数はいたと思われるスケルトンは、各々に持つ武器を手にパーティへと襲い掛かる。
これに六人も合わせる形で戦闘態勢に入ろうとしたのだが……。
「邪魔、う~」
先頭にいたシズに瞬殺されてしまう。
文字通り『瞬殺』だ。
眼前に数えるのも億劫なスケルトンがいると言うのに、まるで何もいないかの様に歩く速度を変えないシズが、そのままスケルトンの群れに突っ込む。
そこからシズが攻撃のモーションを見せる。
ただ、早すぎて何をどうしているのか……さっぱりだ。
正直、いつ剣を抜いたのかさえ分からなかった。
その瞬間、全てのスケルトンがバラバラになった。
骨組みが崩れたと言うわけではなく、完全にバラバラだった。
一瞬にみえた、あの攻撃で何回もの斬撃が入っていたのだろう。




