【1】
翌日。
そろそろ正午に差し掛かろうとしていた頃、青空に天高く聳える巨大な塔、オナハの塔周辺に複数の冒険者パーティが、ダンジョンの復活を今か今かと心待ちにしていた。
トレジャーハンターの二人である、みかんやういういの二人もそのパーティの一つだ。
「結構な数がいるんだなぁ……初日に来たのは初めてだったから、少し驚いたよ」
ういういは辺りをキョロキョロを見回して言う。
このパーティの中でサンダーバードを目当てにしてる人間がどの程度いるかまでは分からないが、確かに相当な数の冒険者やその類いの人間が塔の入り口付近に集まっていた。
ざっと見る限り、三百人はいるだろうか?
「オナハの塔にある宝箱も復活してるしねぇ。そこらを漁りに来たヤツもいるんじゃないかな~?」
軽い口調で言うみかん。
それと言うのも、このダンジョンに来るに当たって、全員が全員、完全攻略を目的としているわけではないと言う事だ。
まるでゲームの様な世界であるし、実際にRPG染みた要素やシステムもある世界なのだが、しかしそれが常識の現実でもある。
そう、現実なのだ。
簡単に言えば命は一つしかない。
死んだら、当然おしまいである。
現実にコンテニューなどある筈もなく、当然の事ながら、セーブポイントもない。
一つ間違えたら、あっさりあの世行きへの片道切符だ。
当然ながら、分不相応な行為を簡単にポンポンやれる程、現実は甘くない。
ここにいる全ての者が、世の中を甘く見積もってるパーティばかりであるのなら、みかん視点からすれば世も末となる。
なら、実際はどうなのか?
メインのサンダーバードを倒すまでは行かずとも、この塔が復活する事で元に戻るダンジョン内の様々な物を目的にしたパーティも多数存在する。
……と言うか、恐らくそっちがメインのパーティが大多数と思われる。
そもそも、このオナハの塔はダンジョンとしての難度が極めて高く、最難関と呼ばれるダンジョンレベルSSの一つ下に当たるレベルS。
前回の攻略も、完全攻略までに約半年を必要としていた。
それだけに、今回は様子見と考えて、とりあえず行ける所までのマップだけでも製作して置こうと考えるパーティとかもいる。
先ほども述べたが、攻略までに半年は掛かるダンジョンだけに、先行する先のパーティがマップを製作すれば、後から攻略に参加するパーティはとても楽になる。
当然、先行してマップを製作した者に相応の対価を支払う事になるのだが、それで攻略難度がグンと下がる事も確かなのだ。
生きて帰れる可能性も格段に上がる。
そう考えれば、決して高い買い物ではなかった。
他方、先行組はマップを売るだけで、それなりの対価を得る事になるのだから、当然全くの損ではない。
この様に、攻略初日の場合は完全攻略をいきなり目指す者は皆無に等しく、その目的もまた、そのパーティのレベルによって大きな異なりを見せていたのだった。
「ま~。思うにねぇ? 復元されて初日に完全攻略とか考えてるのって、うちら位だと思うよ~?」
「えぇぇ~。五千万もするお宝が、あのてっぺんにいるって言うのにか?」
概ねこのダンジョンの相場を口にしていたみかんを前に、ういういは信じられないと言う顔になった。
「……ま、そうなるとライバルはないに等しいってトコか」
しかし、見方を変えると周囲にいる全てが本当の意味でのライバルではないと言う事実に繋がる。
そうと考えたういういは、一応の納得をしてみせる。
簡素に言うのなら、競争相手なんか、少ないならそれに越した事はないからだ。
「……お、もうすぐ十二時になりますよ~」
みかんは胸元にあった懐中時計を見て言う。
ペンダント状になっていた時計は、時間を見る役割の他に、ちょっとしたお守りにもなっている、みかんお気に入りの魔導器だ。
身に付けると、見えない透明の魔法壁が張られ、様々な物理・魔法攻撃を無効にしてしまう。
ただ、一定値を越えると貫通してしまうので、完全無欠と言うわけではない。
余談だが、リダはこれを魔導器なしでやっているが、Verが違うので、余談程度にして置こう。
ゴゴゴゴ…………
ジャスト十二時になった時、オナハの塔にあった入り口の門が重低音を出してゆっくり開いた。
どうやら今回も、ご多分に漏れる事なく、キッチリ一年でダンジョンの復活が行われた模様である。
「よぉ~し。それじゃ行きますか!」
門が開き、新しいクエストの始まりを迎え、ういういは快活な笑みを見せてオナハの塔へと歩き出した。
「そうねぇ~。目指せ、一攫千金!」
程なくしてみかんも合わせる形で笑みを作り、いざオナハの塔へ!