【5】
「今からもう五十年も前の話になる……当時、このコーリヤマには、かつてない程の脅威に立たされていたのだ、う~」
「脅威……ですか?」
昔話をする感じで言うシズに、チョッコは今一つ分からない感じで返事だけをしてみせた。
ただ、シズが何を言おうとしているのかは、ぼんやりとだけではあるが分かった。
一応……本当にさわり程度ではあるが、チョッコも聞いた事があった。
大昔、この街は凶悪なドラゴンに襲われ、壊滅寸前にまで陥った……と言う、昔話だ。
自分より二世代は上のお爺さんやお婆さんが、子供時代のチョッコにそれっぽい話をしてくれた記憶がある。
「当時の私は、そこにいるみかんさんと一緒にカオス・ドラゴンを封じる手段を考案し、二人で協力してカオス・ドラゴンを封じようとした」
「………え?」
チョッコはポカンとなった。
無理もない。
五十年も前の話なのだ。
眼前にいるみかんと言う女性は、どう見ても自分と同じかそれよりも年下にしか見えなかった。
……と、言うかだ?
「あのぅ……会長。あなたは御歳何歳なのですか?」
「う?……うぅ~」
しずは、ちょっと押し黙ってから唸り、そして再び口を開いた。
「レディーに年齢を聞いては行けない!」
「えぇと……了解です」
地味に気迫の籠った言霊をぶつけられたチョッコは少し根負けする形で頷いてみせた。
「カオス・ドラゴンはこの街にある五大池の中にそれぞれ一つずつ存在しているダンジョンの最奥に封印の魔法陣を敷く事で完成された、特殊な封印方法を用いているのだが……う~。困った事にこのダンジョンが近日中に復元されてしまう」
「……はい?」
チョッコの目が点になってしまった。
もはや、残業がどうとか言っていられるレベルではない。
もし、シズの言っている事が真実であるのなら、
「ダンジョンの復元と同時に、封印していた魔法陣も……消える?」
「そうなる、う~!」
「あ、ありえない!」
チョッコは天を仰いだ。
「そ、それで……ダンジョンの復元は、いつ行われるのです?」
「最短のダンジョンで三日後」
「すぐじゃないですかっっっ!」
チョッコはガーン! となる。
なんで、こんな大事な事をもっと早く教えてくれないんだと、思いきり泣きそうな気持ちにさえなってしまった。
「こうしてはいられません! 大至急、協会内全体にいる冒険者に呼び掛けて、一刻も早くダンジョンの攻略をしないと!」
街が……滅んでしまう!
完全に平常心を失っていたチョッコは蒼白の顔をしたまま、即座に行動を開始しようとした。
……が、シズに首根っこを捕まえられてしまう。
「な、ち……ちょっと会長いきなり何するんですか!」
まるで猫の様にプランとなってしまったチョッコ。
密かに身長が低い関係もあって、シズに首根っこを捕まれた事で、宙吊りになっていた。
「まて、チョッコ。人の話はちゃんと良く噛んで聞く物だ、う~」
貴方の話はどんな食べ物ですか?
チョッコは心の中でそんな疑念を抱いたが、それでも相手は上司である。
敢えて、その疑念を口にする事はなかった。
「そこで私達の出番なのだ、う~」
「……出番?」
チョッコは少し不思議そうな顔になり、間もなく一つの答えに到達した。
「まさか……会長自ら……?」
「その、まさかだ、う~!」
「き、危険です! いくら会長でも、そんな五十年周期の超ダンジョンに向かうなんて!」
チョッコは慌てふためく。
ダンジョンの復元に掛かる時間はそのまま難易度を意味している。
全てのダンジョンがそう言うわけではなく、飽くまでもその傾向にあると言うだけなのだが、大半のダンジョンは難易度の高い所ほど、復元に要する時間を長く必要としていたのだ。
そこを考えると、攻略後五十年と言う長い時間を必要とする今回のダンジョンは、間違いなく超絶難度と言う事になる。
難易度Sだったオナハの塔ですら一年で復元したのだ。
その五十倍もの時間を必要とする今回の難易度は……当然、言うまでもない。
「安心しろ。当然一人で行くなどと言う無謀な真似はしない。ここにいるみかんさんと娘のういうい。この三人で今回のダンジョンに挑戦する」
「三人で?」
それでも無謀だとチョッコは思う。
しっかり下調べをしたわけではないので、今回のダンジョンの難易度を正確に知っているわけではないのだが、それでも確実に人数が足りない。
しかし、それでもシズは行くのだろう。
それなりに付き合いの長いシズだけに、チョッコもある程度は知っているのだ。
一度こうと決めたら、中々後には引かないと言う、妙に頑固な性格を、だ。




