【2】
一ヶ月程度前、冒アカで開催された剣聖杯にて遠出をした際、コーリヤマ支部の支部長にお土産を持って行った所、最近になってそのお礼がやって来たのだ。
単なるお土産を渡しただけであったのに、律儀にもお返しがやって来たので、この近くにあった協同組合の会議に出席した序でに支部へ寄って、こないだのお礼がてら食事でも誘うとしていたのだった。
そんな彼女が目にした者は……懐かしい友と、
「ういうい?」
娘であった。
「なんでこんな所にういういがいるんだろう?」
ちょっとだけ不思議そうな顔になる。
見た目は二十代後半にしか見えないシズだが、実は二十代の娘が二人もいる。
密かな事にもういういは二女だった。
そんなういういだが、今はシズにとっても旧知の仲だった親友のみかんと一緒に旅をしている筈だったのだ。
そんな彼女がどうしてコーリヤマの街にいるのだろう。
「あ~、そうか。旅をしてるのなら、ここにいてもおかしくないのか」
シズはポンと軽く手を打って見た。
言い得て妙だが、そう言う答えが妥当だろう。
旅の途中で偶然、今はコーリヤマにいる。
こう考えれば、今のういういがここにいてもなんらおかしくはない。
おかしくはないのだが……。
「う~……近くまで来たのなら、連絡くらい寄越せばいいのに」
我が娘ながら、家族に無頓着なヤツだと地味にイラッと来る。
そこでシズは思い付いた。
「そうだ、お仕置きにおどかしてやろう」
名案だ! そう思い、瞳をキュピ~ン☆ と輝かせる。
直後、早速行動を開始した。
ういういは、みかんと一緒に協会支部へと向かっていた事は間違いなかった。
そのまま追いかけて、
「後ろから殴る! う~!」
もう、それは単なるイタズラで済む話なのだろうか?
きっと軽く殴る程度のレベルだとは思うのだが、シズの顔を見ると、軽く殴るだけには見えないのだから……少し怖い。
「ふふふ……」
妙に目が座っていたシズは、含み笑いそのままに、協会支部へと足を向けたのだった。
▲△▽△▲
やたら洒落た場所だな。
……等と、妙な居心地の悪さを覚えていたのはみかんだった。
「昔は、もっとこうぅ……荒くれ者が好きかってにたむろしていたんですがねぇ」
現状は全くの逆と言えた。
何と言うか、凄く綺麗でホテルのワンフロアみたいな感覚だった。
実際、清掃が行き届いた室内は床に塵一つない。
冒険者がクエストの手続きをする為のカウンター等もあるのだが、まるで役所のカウンターだった。
やたら綺麗でキチンとしていて、カウンターに汚れはおろか傷一つない。
カウンター付近にある待ち合い室でもあるのだろう現在の場所もやたら綺麗だった。
ピカピカで光沢の見える机とソファ。
近くにはドリンクを無料で飲む事が出来るカウンターもある。
但し全てソフトドリンクだ。
「なんか、変わり過ぎてて……場違いな気持ちになってしまうです」
「そうか? 私はむしろ快適なくらいだぞ?」
なんとも微妙な顔になっていたみかんを前に、ういういは穏和な声音を返していた。
そんな時だった。
『お問い合わせナンバー1088番の方、お待たせしました。第八カウンターまでお越しくださいませ』
室内アナウンスが二人の耳に転がって来る。
冒険者協会に限らず、大きな室内でなんらかの経営をしている場所では結構ポピュラーな、声帯拡張魔法が付与される魔導器による物だ。
「お、私らの順番が回って来たみたいだぞ?」
「その様ですねぇ。とりま行きますか~」
二人は待ち合い室で座っていたソファから腰を浮かせ、アナウンスに従う形で八番カウンターへと向かおうとした。
その瞬間、ういういの背筋に妙な悪寒が。
「……?」
思い、後ろを見る。
……何もいない。
「変だな?」
明らかな殺気を感じたのだが……?
しかし、何もないのだから、それ以上の事は起きないだろう。
「……気のせいか」
どっかんっ!
刹那、ういういの瞳にキラキラ星がたくさん出来た。
「ぐばぼぇっ!」
まるで鈍器で猛烈に殴られたかの様な?……と言うか、きっとそのままなのだろう強烈な痛みが頭蓋全体にやって来たういういは、日本語になってないだろう悲鳴っぽい声をあげて、そのまま床にキスをするハメになった。
「な、なななっ! なんだよいきなりっ!」
「う~っ!」
ういういは頭に怒りマークをつけて叫びつつ、殴られた方向に顔を向けると、そこには見慣れた母親の姿が。
「………………はぁ?」
思わず呆けた。
確かにういういが知ってる限り、自分の母親は冒険者協会に所属している。




