【1】
大陸のヘソと呼ばれる、旅人が行き交う街コーリヤマ。
大陸のヘソと呼称されるのは他でもない。
大陸の丁度ど真ん中に位置する為、大陸を人の身体にあてがった上で、人の真ん中に付いているヘソの部分と同じ位置にある事から、大陸のヘソと呼ばれる様になった。
大陸の真ん中に位置する為、東西南北のあらゆる場所から行商、旅の途中で身体を休める為に様々な人間が街を訪れ、そして目的の場所へと向かって行く。
元々は宿場町として栄えていたのだが、国と国とを結ぶ中継地点としての役割もあり、現在では国際的に有名な交易都市へと発展して行った。
そんな大都市とも表現出来るコーリヤマに、みかんとういういの二人はやって来ていた。
オナハの塔から魔法の絨毯を使って約半日。
普段なら馬車や徒歩を使ってやって来るのだが、今回ばかりはそこまで悠長な事を言っていられない。
なんと言っても、一つ間違えればカオス・ドラゴンが復活して、この街をゴーストタウンにさせてしまい兼ねないからだ。
そこらの関係もあり、みかんが持っている魔法の絨毯で、コーリヤマまでやって来たのだった。
「……こんな便利な物があるんだから、いつもこれで移動すれば良いのに」
ういういは半眼になってぼやく。
コーリヤマの街が見える直前まで、絨毯を使ってやって来たのだが、当たり前の当然の様に、馬車よりも圧倒的に早かったからだ。
馬車で行けない山道だって、空の上なら道などいらない。
小高い丘の上だって一つ飛びだ。
「人間、楽を覚えると贅沢が身体に染み付いて抜けなくなるのですよ~。少しくらいの苦労は敢えてしておいた方が良いのです~」
「はいはい……ったく、みかんは何処の年寄りだよ」
そうとぼやき、胸中でのみ呟く。
そう言えば、見た目は二十歳前後だけど、実年齢はそこらの年寄り以上だったな……と。
「今、なんか……すご~く失礼な事を考えていませんでした?」
みかんは眉根をよじった。
妙に勘の良いヤツだと心の中でのみ嘯き、笑いながらういういは言った。
「いや、何も考えてないし。それより目的の場所はもうこの先にあるんだろう? 早く行こうぜ」
誤魔化し笑いそのままに、早足で目的の場所へと向かう。
二人が目指した場所は、ここコーリヤマの中心市街地にある冒険者協会のコーリヤマ支部だ。
カオス・ドラゴンの封印が施されているダンジョンは、その危険性と重要性の高さから、封印後は冒険者協会預かりのダンジョンになってしまったのだ。
カオス・ドラゴンの封印から五十年が経過している今となると、もしかしたら冒険者協会があのダンジョンを手放している可能性もあるのだが、みかんの記憶が確かであれば、今でも封印のダンジョンは協会が管理している場所だった。
「まぁ、違っていたらいたで、そっちのが楽ではあるんですがねぇ」
みかんは自分なりの本音を軽く漏らして見せた。
別に冒険者協会が嫌いと言う訳ではない。
昔はみかんも協会側の人間でもあったからだ。
しかし、色々あって現在はフリーのトレジャーハンターなんぞをしている。
つまるに、一度は辞めている組織なのだ。
この物語を読んでいる方で、会社員だった方がいたら、軽く想像して貰おう。
なんだかんだの理由があって、その会社を辞める事になって、そこからなんだかんだで、またその会社に行く事になったら……どうだろう?
大なり小なり気まずくないだろうか?
今のみかんはそんな気持ちだったのだ。
余り気乗りはしないが、みかんはういういと一緒に冒険者協会のコーリヤマ支部に向かう。
街の一等地に居を構えていたそこは、まるで小さなお城の様な建物だった。
「……無駄にお金掛けてますよねぇ」
みかんは少しだけ吐息混じりだ。
「良いじゃないか! 私はこう言うの好きだぞ? てか、やっぱり冒険者協会は凄いよな。支部なのにこんな立派な建物を建てるなんてさ」
いけすかないと言いたそうなみかんとは対照的に、とても好印象を持っていたういういが、嬉々とした声音で、協会支部の方へと足を向けた。
少ししてから、みかんも渋々と協会支部に足を向けた。
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その日、彼女がここコーリヤマにやって来たのは、全くの偶然であった。
「う~?」
頭の両端に綺麗なお団子を作った東方風味の女性。
しかし、実際は同じ東方でも大陸ではなく極東の島国出身だった彼女は、冒険者協会でも重鎮に位置する人物でもあった。
名前をシズ・ソレイユ・サンスタンドという。
別名・クシマの剣聖。
クシマ国の冒険者協会・会長をつとめていた彼女は、その日たまたまコーリヤマの街に足を運んでいた。




