【19】
「……まさか」
「ほぅ、心当たりがある見たいですねぇ」
「きさまっ!」
一気に憤怒の顔になったみかんは、怒りそのままに、
超炎熱爆破魔法!
ドォォォォォォォォンッ!
先ほどのサンダーバードを一瞬で消滅させた超魔法を道化師に向かって放って見せる。
しかし……。
「暴力はいけないですねぇ……みかんさん。私はこう見えて平和主義者だ。まして今は戦うつもりなど微塵もない」
超爆発を喰らった筈の道化師は、塵一つのダメージを受ける事なく、平然とその場に立っていた。
「……な、なんだよ、こいつ」
ういういの脳天に戦慄が走った。
サンダーバードですら、ういういの視点からすれば十分な化け物だった。
だが、眼前の道化師はサンダーバードすら遠く及ばない、別次元の実力を持つ、得体の知れない存在だった。
特に気付くつもりがなくとも、さっきのを見せられた日には嫌でも気付くと言う物だ。
「そもそも、私は慈悲深い提案を貴女に持ち込んでいるのですよ? みかんさん」
「お前がそんな慈善に満ちた台詞を口にするとは思わなかったです」
「心外ですねぇ……私ほど思慮深く、慈悲に溢れた存在など居ませんよ」
「ご託は聞き飽きた。早く本題を言うです」
みかんは、今にも二発目を発動させそうな勢いで口を動かす。
道化師は軽く嘆息した。
「やれやれ、つくづく相変わらずと言う単語を私の口から引き出したいと見える……まぁ、いいでしょう。確かに少しお喋りが長くなりすぎた」
言い、道化師は少しだけ真剣な顔になった。
「カオス・ドラゴンを封じている五つのダンジョンをご存じかと思います」
道化師の言葉に、みかんはコクリと頷きだけを返した。
他方のういういには、ハテナしか顔に浮かばなかったが、話はそのまま続いて行く。
「このダンジョンが、近日中に復元されます」
「……な、なんだって!」
みかんは愕然となった。
「そ、そんなに大変な事なのか?」
「大変なんてものじゃないです! あのダンジョンはカオス・ドラゴンを封じ込める封印がしてあるのです!」
事情が飲み込めないういういに、みかんは声高に説明してみせた。
道化師はみかんの言葉に頷きを返して見せる。
「ご明察の通り。あの五つのダンジョンはカオス・ドラゴンを封印する為の道具として使われた。ちょうどドラゴンを封印するのに都合が良い条件が色々と揃っておりましたからねぇ……しかし、それにはダンジョンの攻略が必要だった」
「………」
「すると、どうなるでしょう? あのダンジョンは攻略後五十年で復元する決まりになっている。攻略され、封印の魔法陣を敷いた物は全て巻き戻され、元の形に戻ってしまうのです」
結果、封印が解かれてしまう。
「……それ、ヤバイ話だよね?」
ういういは口許を引き釣らせる。
大体ではあったのだが、かなりとんでもない状況にあった事だけは理解する事が出来た。
「ヤバイ所じゃないです。カオス・ドラゴンが復活したら……封印している街、コーリヤマは地獄絵図になるです。下手したら一日でゴーストタウンになるかも知れない」
「まじか……」
ここに来て、漸く事の重大さが分かって来たういういが、顔面を蒼白にさせた。
「ほらねぇ……耳より情報だったでしょう? 貴女達人間にとって、カオス・ドラゴンの復活を阻止出来る特大のチャンスなのですからねぇ……ククク」
「………」
道化師の言葉に、みかんは無言になった。
正直に言うのなら、言葉を選んでいた。
道化師の言っている事はほぼ間違いない。
確かにダンジョンは攻略されていた。
同時に攻略された以上は復元もされる事になる。
それが、この世界における常識であり自然の理でもあるからだ。
反面、腑に落ちない部分もある。
人間の命など塵芥にも満たないと考えている道化師が、なぜこんな事をみかんに教えているのか?
「お前は、なにがしたいんだ?」
「何が? 人助けですよ。心からの善意です」
「嘘は休み休み言え」
「休み休みなら、言っても構わないのですか?」
「人の揚げ足ばかり取って……」
依然として小バカな態度を取り続ける道化師に、イライラが収まらないみかんがいた。
それでいて……思う。
眼前の道化師が何を考えてみかん達に教えているのかは知らないが、道化師の考えがどうあろうと、目前に生まれた脅威に変わりはないと。
「幸か不幸か? あのダンジョンは段階的に攻略されている為、五つの封印はいっぺんに開封される事はありません。最初が今から四日後。次がその三日後。次とその次のダンジョンだけ同時に攻略されており、ここだけ同時復元になりますが、二番目の更に三日後に復元されます。そして、最後の五番目がその更に三日」
どうやら、三番目と四番目以外は三日間隔で攻略されて行った模様だ。




