【14】
「およ~っ!」
「ええええええっ!」
これには思わず二人も激しく度肝を抜かれる。
躍動感があるとは思ったが、まさか本当に動くとは思わなかったのだ。
「い、いきなり動くとか反則すぎるでしょ! ちゃんと、私はこれから動きますと、一言断ってからにしなさいよ~~~~っ!」
直後、みかんが思いきり眉をつり上げて叫んでいた。
ハッキリ言えば、そんな断りをいれる相手の方が珍しかった。
「今、そんな事言ってる場合じゃないだろ! あれはかなりヤバそうだぞ!」
ういういは即座に剣を抜いて臨戦態勢に入った。
直後、ラーが魔導式を頭の中で作り始め、ジャグも迎撃体制を取る形で剣を抜き、構えてみせた。
程なくしてみかんも補助魔法を発動させる。
対象はういういとジャグ。
二人同時に、
超攻撃力上昇魔法レベル99
超防御力上昇魔法レベル99
超身体速度上昇魔法レベル99
みかんの補助魔法でステータスを反則的に上昇させる。
「おおっ! こ、これはなんと言うかチートの様な……」
「違うからっ! 頑張って熟練度上げたんだからっ!」
感嘆にも近い声音を吐き出すジャグに、すかさずみかんが反論した。
みかんの述べる通り、超魔法の熟練度はかなりの時間と苦行を要する。
簡素に言えば努力の賜物だと言いたいわけだ。
「グゴァッ!」
ミノタウルスみたいな化け物は、右手に持っていた大きな斧で近くにいたういういとジャグを凪ぎ払おうとする。
だが、しかし。
ガキィィィンッ!
その巨大な斧は、まるで見えない壁に当たってしまったかの様に止まってしまう。
止めたのはジャグだ。
「……まさか止められるとは思いませんでしたよ」
止めた本人も驚いていた。
きっと、彼本人も予想していた以上の能力アップがあったに違いない。
ただ、なんとなくだが、補助魔法がデタラメだっただけに、止められる可能性があるのかな? とは思っていた。
思ってはいたのだが、である。
「巨木の様な斧の攻撃が、まるで小枝の様だ……こんな魔法を使う貴女は何者なのです? みかんさん」
「何者でもないです。ただの野良トレジャーハンター」
「……ふ。今はそうして起きますか。今はね」
何やら意味深な言葉を吐き出したジャグ。
直後、みかんに向けて含み笑いにも似た笑みを向けた。
「………」
瞬間、みかんはゾクッと背筋が寒くなるのを感じた。
「……まさか、ね」
密かに、みかんはこの悪寒を以前にも感じた事がある。
……そう。
遠い遠い昔に、だ。
「いや、今はそれどころじゃないです」
少しだけ、大昔の昔話に意識を奪われる所だったみかんは、すぐに頭を横に振って、意識を目前の戦闘に集中しようとする。
そこから気づいた。
もう、既に戦闘の粗方は決着がついてしまった事に。
反則的な補助魔法を受けた二人が、圧倒的能力差でミノタウルスみたいな化け物を一蹴し、アッサリと勝負を終わらせてしまった。
「凄いわ、二人共!」
これには、近くにいたラーもビックリだった。
苦戦必死と予想していた戦いが、全く危なげもないままに勝利を納めてしまった結末に、目を見張る事しか出来なかった。
「補助魔法のお陰かな」
「まぁ、ウチのみかんは、やる事が悉く滅茶苦茶だから。そこまで驚かなくても良いと思うぞ?」
苦笑混じりのジャグを前に、ういういはあたかも自分がやったかの様に鼻高々に胸まで張って答えていた。
中々の面の皮である。
「けど、相手が像じゃ……剥ぎ取りは無理だな」
とほ~って顔になった。
中々の守銭奴振りだ。
そんなういういの眼前に、これまで無かった宝箱が出現した。
「おおおおおおおおっ!」
思いきり歓声を上げた。
つくづく守銭奴らしい歓声だった。
「なんか、こっちまで恥ずかしくなるです~」
みかんは少し眉間に皺を寄せつつ、人差し指を当てていた。
「まぁ、良いじゃないですか。人それぞれですよ」
ややフォローを入れる感じで言うジャグだったが、やっぱり少しだけ口許が引き釣っていた。
地味に呆れ顔になっていた二人を尻目に、ういういは当たり前の当然の様に宝箱を開けた。
中身は、純銀。
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
ういういは飛んで喜んだ。
この世界における銀は、超貴重だ。
破邪の金属でもある銀は、武器はもちろんの事、あらゆる魔導器にも使う。
故に希少価値が極めて高く、その額は希少金属の二倍。
「これだけあれば、軽く億は行くぞ! もう、なんかサンダーバードとかどうでも良くなって来たぞ!」
しかし、ういういは行くのである。
例え、一億の金が手に入っても、それでも行くのである。
五千万の上乗せを頂きに!




