【11】
「流石、ここまで登って来た方だけありますね」
そこから、青年の方が爽やかな笑顔でみかんに声を掛けて来た。
ういういは既にワイバーンの骸に向かい、笑顔でナイフ片手にザクザクやっていた。
「……助けて下さり、ありがとうございます」
みかんも爽やかな笑みを返して見せる。
結果はどうあれ、助けてもらった事には変わりない。
そうなれば、お礼を口にするのが礼儀と言う物だった。
「貴方達も中々の腕前ですねぇ……えぇと、名前を聞いてもよろしいですか?」
「あっと、これは失礼」
みかんに訪ねられた青年は、そこで一枚のカードを差し出してみせる。
冒険者なら大抵の人間が所持している名刺の様な物だ。
魔法のカードでもあるそれは、本体から何枚でも複製する事が出来る為、名刺代わりに相手へと渡す事が可能だ。
「ありがとうございます」
みかんは愛想の良い笑みのまま、青年から冒険者カードを貰う。
「貴女のカードも頂いてもよろしいですか?」
「ああ、申し訳ないです。実はみかんさんとういういさんは野良のトレジャーハンターでして」
「無所属……ですか」
青年は意外そうな顔になった。
この世界における無所属と言うのは、遊び半分でやってる自称冒険者か、本業は別にあるのだが、趣味で冒険してる暇人かのどちらかだった。
仮に冒険者協会に入っていなかったとしても、なんらかの職業組合に入っているのが通例だ。
簡素に言えば、冒険者カードがないにせよ、最低でも組合カードは所持している物だとばかり思っていたのだ。
「貴女クラスの方なら、協会や組合が放って置くとは思えないのですがね……本当に意外で驚きました」
「あはは~」
態度でも驚きを示していた青年を前に、みかんは苦笑する形でお茶を濁した。
そこから、視線を冒険者カードに移す。
青年から貰ったカードには、彼のあらましの情報が掲載されている。
みかんは軽くカードの内容をツラツラ読んで見た。
名前はジャグ・ニルス。
年齢28歳。
冒険者クラスはS+。
組合には未加入ではあるが、騎士の勲章を持っている模様だ。
そこから考えるに、どこかの騎士団に所属している物と予測出来る。
勲章はクシナ国・準二級。
これは宮廷騎士か、騎士団の中隊で隊長をしているクラスだ。
こんな所でのうのうとクエストをしている様な人間ではない。
このカードは本物だろうか? と、偽装カードを疑ったが、偽物には見えない。
そもそも協会が作るカードは厳重なセキュリティが何重にもしてあり、余程の事がない限り、偽のカードを作るなんて出来ない。
そこから考えるのなら、このカードの内容を疑う必要はないだろう。
「凄い経歴の方なんですね」
割りと本気で驚いて言うみかん。
「いえ、些末な物です」
青年は苦笑して答えた。
それが謙遜なのかどうかは分からなかったが、謙遜であっても嫌味に取られかねない経歴である。
少し後、青年の相棒なのだろう女性が淑やかな笑みを作りながら、青年の隣にやって来た。
「私の妻です。名前はラー・ニルス」
青年は軽やかな口調で言う。
すると女性……ラーも淑やかな笑みを崩す事なくお辞儀をして見せた。
「はじめまして。ラーです。よろしくお願いします」
「あ、こちらこそよろしくです」
なんでも気品のある、落ち着いた振る舞い方でお辞儀をするラーを前に、みかんもやや合わせる形で頭を下げた。
そこから、ラーからも冒険者カードを渡される。
冒険者にとって、このカード交換は挨拶の通例なのである。
むしろ、これがないみかんの方がおかしい位なのだ。
「ありがとうございます」
彼女の気品の前に、思わず恐縮してしまいつつもカードを受け取り、中身を確認する。
年齢は25歳。
魔導師組合に所属。
ギルドランクはSS-。
ただ、冒険者ランクはSだった。
この辺は、冒険者協会への貢献度の差とも言える。
能力が高くても、協会のクエストをこなしていないと、冒険者のランクは上がらないからだ。
他方の組合ランクの方は、純粋にその人物の実力を指している物なので、相手の実力を知りたい場合は、組合ランクを見た方が、より正確な能力を知る事が出来るかも知れない。
そこはさておき。
「お二人とも、ハチャメチャな方だったのですねぇ」
カードを見る限りは、この塔を初見で攻略可能な能力を持っていると判断しても良い。
そして、後続ながら今の場所に立っていても、なんらおかしくはない二人でもあった。
少し勘繰り過ぎたかな?
みかんは胸中でのみ呟く。




