【10】
「死に物狂いだな……これは」
口を引き釣らせたういうい。
「どうやら、そうなりそうです」
他方のみかんも普段の能天気さが消えて、表情を引き締めた。
その時だった。
「伏せてっ!」
甲高い、女性の声がした。
「……えっ!」
「およ?」
思わず後ろを向き、間もなく伏せて見せる。
その瞬間、
ドォォォォォォンッ!
二頭いたワイバーンの間に巨大な炎の球体が飛んで行き、瞬時に大爆発を起こす。
上位炎球魔法か?
今一つ、何が起きたのかは分からなかったが、おおよその見当を付けると、この辺が妥当かなと、ういういは考える。
事情なんか全く持って飲み込めないが、一つだけ分かった事がある。
「ここの攻略組か?」
「多分、そうなんだと思う~」
互いに伏せたみかんとういういは、しゃがんだまま自分なりの予測を口にした。
そうしてる間に、上位炎球魔法を放った女性は、再び攻撃体制に入る。
同時に、彼女の近くにいた青年は、驚く程のスピードでワイバーンに向かって突進して行く。
「うぉぉらぁっ!」
迎え撃つ形で吐き出して来た炎を軽く避け、青年はワイバーンの頭に強烈な斬撃を叩き込んだ。
「や、やるねぇ……」
「おうふ、これは本格的に強そうな冒険者みたいです~」
ポカンとなるういういと、少し困った顔のみかんがいた。
「……? どうしたみかん?」
「え? ああ……なんでもないです」
やや歯切れが悪い物の、笑顔で返答するみかんがいた。
しかし、確実に声を曇らせている。
「ああ、そうか!」
ハッと気付いたういうい。
つまり、だ?
「このまま行ったら、あいつらにワイバーンの素材を取られちゃうって事か!」
「相変わらずの守銭奴振りに、少し引くです」
「じゃあ、他になにがあるって言うんだよ?」
ういういは眉をよじった。
「……まだ、みかんも確信は持てないです」
「確信?」
「です~……あ、でも~?」
そこでみかんはワイバーンと戦う二人を指した。
「実際にこの調子だと、あの二人にワイバーンを倒されてしまう事だけは間違いないかもです~」
「ですよね~っ!」
納得混じりになっていたういういは、すかさず動いた。
助けてくれた事はありがたく思うし、ありがとうとお礼も言いたい。
お礼を言うだけなら無料だからだ!
しかし、ワイバーンを倒されてしまったのなら、無料と言うわけにも行かなくなる!
「それは私の獲物でもある! 横取りだけはしないでくれよっ!」
叫び、ワイバーンに向かって行く。
まだ、みかんの補助魔法が有効だったういういは、尋常ではない素早さでワイバーンとの距離を詰めると、そのまま高々とジャンプし、
「らぁっ!」
ズバッッ!
「グギャァァッ!」
ワイバーンの羽根をへし折る様に斬り付ける。
この一撃で上手に飛ぶ事が出来なくなったのか? そのままバランスを崩して床に落下した。
ドシャッッ!
頭から叩きつけられる様にして落ちたワイバーンは、そこからしばらくはジタバタともがいて見せる。
その期を逃さず、ういういが次の一手を超速で打った。
ザシュッッ!
気合い一閃。
その一瞬で、ワイバーンの首が飛んだ。
「まずは、一匹っ!」
気合いを込めて叫んだ時、もう一匹のワイバーンが断末魔の叫びを上げる。
「……ですよねぇ」
ういういはちょっとだけつまらない顔になる。
なんだかんだで倒せる相手と踏んでいたからだ。
簡単に言えば、ワイバーン二頭分の素材を手に入れられると考えていたからだ。
これでは、見事に折半ではないか。
「……まぁ、助けてもらってるし、文句は言えないんだけどなぁ……」
それでも、やっぱりどこか素直に喜べないういういがいた。
他方のみかんは、少し怪訝な顔になっている。
「なんだよ? まだそんな難しそうな顔なんかして」
「……妙だと思いません?」
「妙?」
「今の今まで、一人だってみかんらを追う後続がいなかったんです」
「まぁ、いなかったな」
ういういは、それがどうかしたか? と言わんばかりだ。
みかんは少し肩をすくめた。
「まぁ、みかんが少し疑り深いだけかも知れないですしねぇ。とりまヨシとして起きますか」
「?……まぁ、いいけど」
やや、気を取り直して言うみかんを前に、やっぱり要領を得ていないういういは、しかし、納得加減の頷きをして見せた。
どうして今のみかんが、そんな顔をしているのか分からない。
だが、少し様子を見ればわかる。
そして確実に言える事は、自分にとって不都合な事は起きていない。
相棒として長い付き合いがあったういういは、みかんを完全に信頼していたのだ。
それで今まで失敗した事はないし、裏切るとも全然思えない。
故に、今はこれで良いと判断したのだった。




